CRYSTAL FIGHTERS 『Star Of Love』
〈ダンスとロックの融合〉なんて、古臭い命題はもういらない。さまざまなパーティーやムードや聴き方や文脈に繋がることのできる5人は、まさに時代の申し子なのだ!!
デジタルで気軽に音楽が発信できるようになり、多様なスタイルが共有されるようになってからというもの、クラブ・ミュージックやインディー・ロック周辺からは、グローファイ/チルウェイヴ、シットゲイズ、ウィッチ・ハウス、ウォンキー、ジュークなどなど、多種多様な呼び名を付けられた、おもしろい表現方法が短期間で次々と飛び出している。今回ご紹介するスペイン出身の男女5人組、クリスタル・ファイターズはそのどれにも当てはまらないようでいて、実はどのシーンともコネクトできる雑食性を持った不思議なバンドだ。
「私たちの音楽は、シンセサイザーとバスク音楽の民族楽器を、歌とテンポの良いダンス・ビートと融合したようなもの」とメンバーのラウレ(ヴォーカル)が説明してくれたように、彼らのサウンドを特徴づけているのは、日本では耳馴染みの薄いスペイン訛りの英語や独特の旋律に起因するところが大きい。かといってバスク音楽を取り入れた奇抜さだけが取り柄でないことは、あのブロークン・ソーシャル・シーンが〈クラクソンズのセカンド・アルバムがめざして辿り着けなかったような大ヒット作だ〉とアルバム『Star Of Love』をベタ褒めしていることでも明確。冒頭に述べた現代的な音楽表現に通じるテクスチャーとトラディショナルな音楽の要素を巧妙にミックスした彼らの曲は、そういった賞賛を受けて然るべきバンドなのだ。
バンド結成のきっかけは、ラウレが亡くなった祖父の住んでいたバスク地方の家で見つけた日記だという。遺された日記には未完成のオペラが記されており、そのタイトル〈Crystal Fighters〉がバンド名の由来となり、ラウレがロンドンの友人たち、ギルバート/グレアム/セバスチャン/ミミと共に、そのオペラを完成させるつもりでスタートした。
「初めは本に書かれていた伝統なバスク音楽の楽器を試してみた。特にチャラパルタっていう、水平に置いてある長い木の角材を2人1組で木槌のような棒でビートを刻む楽器でね。私たちはその音にエキサイトして、伝統的なバスクのメロディーを探しはじめた。そういう観点からすべての曲が作られているの」。
2009年にキツネからリリースした2枚のシングルで、彼らはたちまち多くの人たちを虜にした。M.I.A.とCSSとゲットー・ハウスが同居したような過激でポップな“I Love London”に、グローファイとエレクトロとベースライン・ミュージックを掛け合わせた“Xtatic Truth”。特に後者はBBC Radio 1のサポートに加え、別ヴァージョンが『Kitsune Maison Compilation 7』やロブ・ダ・バンク、アニー・マックのミックスCDにも収録されたことで、急速にバンドの名を広める結果をもたらした。また彼ら自身がCSSやトゥー・ドア・シネマ・クラブのリミックスを手掛ける一方で、自分たちのシングルでは趣味を反映させたのか、80KIDZやブラックルズ、ブルックス・ブラザーズ、D・ブリッジ、イン・フラグランティ、ルネッサンス・マン、セパルキュアーら新たなサウンドを創出するエッジーなリミキサーを起用していて、そのセンスも一目置かれている。
このたび日本盤が登場した待望のアルバム『Star Of Love』では、バスク音楽にトロピカルなフィーリングをまぶした“Plage”、重低音ベースに情熱的なメロディーとパーカションを乗せた“Swallow”など、「伝統的な音色を私たちが聴いているダンス・ミュージックに似た構成で組み立てた」という言葉通りに伝統とモダンな要素が見事に融合されている。先述のシングル2曲はもちろん、噂に違わぬ素晴らしい楽曲が揃い、アルバムとしての完成度も非常に高い。ライヴの評判も上々らしく、2011年は彼らのさらなる飛躍を見届ける年になりそうだ。
▼クリスタル・ファイターズが参加/楽曲提供した作品を一部紹介。
左から、2009年のコンピ『Kitsune Maison Compilation 7』(Kitsune)、CSSのリミックス・アルバム『Donkey Party: Bate Cabelo』(KSR)、2010年のコンピ『Gildas & Masaya: Tokyo』(Kitsune)
▼クリスタル・ファイターズ曲のリミックスが聴ける作品を一部紹介。
左から、“I Love London(80Kidz Remix)”を収めた80KIDZの仕事集『THIS IS MY WORKS』(Kidz.Rec)、“I Love London(Brackles Remix)”を収めたワンマンのミックスCD『Rinse:11 Oneman』(Rinse)