インタビュー

Emi Meyer 『Suitcase of Stones』

 

スーツケースにピアノを詰め込んで、ふわりと気ままに、歌いながら彼女が帰ってきた。3度目の旅の行き先はどちらですか?

 

 

前作のタイトルが『PASSPORT』で、新作は『Suitcase of Stones』。エミ・マイヤーはみずからの音楽表現を旅に準えている。

「2枚のタイトルの関連性を考えたことはなかったですけど、そういえば確かに! 前作の日本語アルバムは現在の活動の方向性と可能性に繋がった、自分にとっての〈パスポート〉でした。そして今回の英語アルバムには、その時期の思い出や心配や希望を詰め込んでいます。〈スーツケース〉で旅の気軽さを、〈ストーンズ〉で思い出の重みを。その両方を示したタイトルなんです」。

彼女が〈その時期〉と語るのはどういうことかというと、実は今作の曲書きは、『PASSPORT』の制作とほぼ同時期に行なわれていたということ。その当時にエミ・マイヤーが見ていたことや感じていたことが、別の言語、別のアプローチで形になったというわけだ。日本語で詞を書いて歌うことは彼女にとっては慣れないことであり、だから『PASSPORT』はチャレンジングなアルバムだった。それゆえの刺激とおもしろさがあった。それに対して今作はもっとナチュラルだし、クラシカルだ。よりパーソナルであるうえ、歌詞も馴染みやすい。英語詞のデビュー作『Curious Creature』と比べても伝わりやすさが増し、よっていままででもっとも彼女のことを近く感じられる作品となっている。

「私の日本語のヴォキャブラリーは英語に比べるとまだまだなのですが、チャレンジすることによって倍の喜びが得られる。それに気付けたのが前作でした。そして、成長していくと同時に自分に正直になれるということの大切さを込めたのが、今作です」。

英語詞と日本語詞の書き方の違いは、どういったところにあるのだろう?

「日本語の曲はメッセージから始めて、それを表すにはどう歌詞を繋げていけばいいかを考えますが、英語では主に勘で言葉を並べていって、最後に意味するメッセージがわかるという順番なんです。曲はいろいろな感情から生まれるわけですが、あとでメッセージが明確になりますね。だからいまなら自分の楽曲を解説することもできます。〈私はこういうことを自分に言い聞かせたかったんだな〉ってわかるから」。

以前は〈自分で楽曲解説などできなかった〉と彼女は言うが、今作の資料には自身による楽曲解説が載せられていた。例えば“Christopher”という曲に関しては〈理解されなくても孤独になるよりは、自分を信じればいつかは分かってもらえるというメッセージです〉といったふうに、その歌で伝えんとすることを記している。抽象性を多く含んでいた以前の作品からのこうした移行を、彼女の成長と捉えてもいいだろう。

サウンド面にも触れておくと、基本はエミ・マイヤーのピアノ、エリック・イーグルのドラムス、キース・ロウのベースというトリオ編成で、曲によってそこにストリングスやホーン、パーカッションなどが加わるというもの。極めてオーガニックで、どこか古風な趣も湛えているが、メロディーの良さとエミ・マイヤーの独自性がクッキリと伝わるシンガー・ソングライター・アルバムになっている。

「エリック・イーグルさんには『Curious Creature』でもお世話になり、いろんなスタイルが叩けるのでまたお誘いしました。キース・ロウさんはフィオナ・アップルやいろんなジャズ・ミュージシャンとバンドを組んでいたので、想像力の豊かな方だと感じました。ふたりは仲が良く、私たちはたくさん笑い合って制作をしました。3人の感性が混ざり合ったのがこの作品ということですね。アレンジは楽曲のストーリーのナレーション的なものにしたかった。そして私のピアノはと言えば、前よりもヴォーカルのメロディーにフォーカスしたものになっていると思います」。

ひとつの旅を終えるごとに取り出して聴きたくなるような、そんなアルバムだ。

 

▼エミ・マイヤーの参加した作品。

左から、Shing02の2008年作『歪曲』(Mary Joy)、Jazztronikの2008年作『JTK』(ポニーキャニオン)、CHIYORIの2009年作『CHIYORI』(Mary Joy)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年04月18日 15:00

ソース: bounce 329号 (2011年2月25日発行)

インタヴュー・文/内本順一