西本智実
ロシアの名門オケの首席客演指揮者に就任した西本智実
©宅間國博
これまで多くのロシアのオーケストラを指揮してきた西本智実だが、今回はあのスヴェトラーノフが薫陶した名門ロシア国立交響楽団の首席客演指揮者に2010年シーズンから就任することに(現在の首席指揮者はマルク・ゴレンシテイン)。そしてその新しいコラボレーションの一歩としてチャイコフスキーの交響曲第5番をモスクワで録音した。
「ロシアで最も優れたオーケストラからオファーを受けたことは本当に光栄なことです。チャイコフスキーはロシアでも常に演奏されている人気作曲家ですが、その作品を彼らもこれからもう一度じっくりと取り組みたいという考えを持っていて、その過程で私に声がかかりました」
西本智実とチャイコフスキーの第5番は縁が深い。
「色々なオーケストラへのデビューの機会にこの作品を振ることが多かったです。リンツ・ブルックナー管弦楽団でもそうでしたし、アメリカ進出もこの作品でした。節目節目で依頼されるのがチャイコフスキーの5番でした。それぞれのオーケストラによって当然のように違いはありましたが、例えば第1楽章冒頭の弦楽器の刻みは、まさに真冬の雪の中をざっくざっくと歩いて行く、そんな感じで表現してもらうために苦労もしました。アメリカの西海岸のオーケストラでは雪を踏みしめると言ってもね(笑)」
作曲先攻出身の西本はチャイコフスキーについても独自の視点を持つ。
「あまり取り上げれられませんが、チャイコフスキーは本当にオーケストレーションも天才的です。そして和声の創造の素晴らしさ。あまりにも自然すぎて、逆に私たちは気がつかないくらいです。チャイコフスキーの存在がなければ、例えばリヒャルト・シュトラウスなど後輩たちの音響的世界も変わっていたでしょう。そのくらい大きな存在です」
交響曲第5番(1888年作曲、初演)はあまりにも有名なチャイコフスキーの代表作で、全曲にわたって「運命の動機」と呼ばれるモティーフが重要な役割を果たす。
動機に彼の人生をあてはめて聴くというのも聴衆の特権です。私はそういう事は感念で捉えます。一方で、この作品には同時期に書かれていた『眠れる森の美女』と共通するファンタジーも感じられます。特に第3楽章は共通するものが多いですよね」
5月にはロシア国立交響楽団との日本ツアーが予定されている。首席指揮者のマルク・ゴレンシュタインも帯同し、ソリストにはヴェドラーナ・コヴァーチ(ピアノ)とアレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)も参加。西本はオール・チャイコフスキー・プログラムを指揮するが、その中にはもちろん交響曲第5番もある。西本は、また2011年春にオープンする八王子市の新市民会館(オリンパスホール八王子)のエグゼクティブプロデューサーにも就任する。彼女の新しい挑戦を、この春我々は目撃する。
『ロシア国立交響楽団ジャパンツアー2011』
5/15(日)オリンパスホール八王子(完売)
5/17(火)横浜みなとみらいホール大ホール
5/19(木)NHK大阪ホ−ル
5/26(木)アクロス福岡シンフォニーホール
5/27(金)サントリーホール大ホール
5/29(日)神戸国際会館こくさいホ−ル
5/31(火)石川県立音楽堂
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