インタビュー

BATTLES

メンバーの脱退を乗り越えて、バトルスの新しい闘いが始まった

デビュー・アルバム『ミラード』で、いきなり21世紀のロックをヴァージョン・アップさせたバトルス。ジョン・スタニアー(ヘルメット)、イアン・ウィリアムス(ドン・キャバレロ)、デイヴ・コノプカ(リンクス)といったハードコア・パンクの精神を受け継ぐ3人の凄腕ミュージシャンと、フリー・ジャズ界の巨匠、アンソニー・ブラクストンを父親に持つ理論派、タイヨンダイ・ブラクストンの4人のワザと知性、そして、パンクから現代音楽まで様々なジャンルの音楽が異種格闘技するサウンドは、個性派揃いのNYシーンのなかでも際立っている。そんな彼らの4年ぶりの新作『グロス・ドロップ』がついに完成。なにしろ、前作があれだけ話題になっただけに、プレッシャーも並大抵ではなかったはずだ。

「確かに最初はすごい新作を作ろうと力んでいたけど、結局、頑張ろうとするのはやめて自分たちが聴きたいと思うような歌を作ろうと決めたんだ。今回のレコーディングは不思議な感じだったよ。これまでと全く違うルールでやってみたんだ。スタジオの別館にメンバーが半年間住み込みんで、別々の部屋で作曲して、PCネットワークでファイルを共有したんだ。そして、まとまった楽曲をスタジオに持っていって繋ぎ直す。まるでフランケンシュタインみたいな技法だね。変わったアイデアだけど、うまくいったと思う。ファーストより進化したアルバムができたんじゃないかな」(イアン・ウィリアムス/以下同)

しかし、アルバム完成直前に思わぬ事件もあった。時間をかけて曲を作りたいタイヨンダイと、できるだけライヴをやりたい残り3人の意見の食い違いからタイヨンダイがバンドを脱退。バンド存続が危ぶまれた時もあったが、そんな危機も最終的にはプラスのほうへと動いたようだ。

「以前は僕たちの間で、ちょっとトラブルが起きていたんだ。それはサボタージュのゲームのようなもので、例えば誰かがカントリー調のメロディを出してきたら、じゃあ、その上にヘヴィメタ調のギターを重ねようとか、お互いがお互いのアイデアの上を行こうとして、結局完成に辿り着けないってことがあった。でも、3人になって以前より自由に身動きが取れるようになってからは、そういう悪ふざけもなくなってスピーディーに曲を作れるようになったよ」

そして、音源を3人で再構成していくなかで新しいアイデアが生まれ、それが新作を特徴付けることになった。

「タイヨンダイがもっと歌を入れたいと言ってたんでヴォーカル・パートを増やしたんだけど、彼がいなくなって3人で続けようと決めた時に彼が関わったパートを全て取り除いたんだ。そこで空いたスペースを埋めるためにゲスト・ヴォーカルを招いたのさ」

その4人というのが、実にバトルスらしいユニークなラインナップだ。バトルスお気に入りのテクノ・レーベル、【KOMPAKT】で異才を放つ、マティアス・アグアーヨ。〈ノー・ニューヨーク〉の精神を受け継ぐブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノ。テクノ・ポップのオリジネイター、ゲイリー・ニューマン。そして、ボアダムスからヤマンタカ・アイ。

「ゲストとのコラボレーションのやり方は様々だった。ネットを通じてサンプルを送りあったり、スタジオで一緒にレコーディングしてみたり。今回一番最初に参加してもらいたいと思ったのはアイだった。晴れた夏の日に車でドライブに行くようなグルーヴィな曲だけど、アイはこの曲を新しい次元まで持って行ってくれた。何をしているのかすらわからなかないくらいイカレたパフォーマンスだったよ(笑)。ゲイリー・ニューマンは、ずっと大ファンだったんだ。連絡をしたら『ぜひやりたい』という返事が戻ってきた。そこで彼のためにキーボードで音源を作って、ゲイリーが歌いそうなメロディを送ったんだ。時々やる事なんだけど、〈例えばあのシンガーだったらこんなメロディを歌うだろうな〉って想像しながら作曲したりするんだ。ゲイリーは締め切りの数日前に、歌詞を作って歌ったサンプルを送ってくれた。それは曲に最高にフィットしてて、いま聴き直してもハイになるよ」

トラブルから生まれた思わぬ開放感。そして、多彩なゲストの参加によって、バラエティに満ちて遊び心を感じさせるサウンドは、まさにバトルスの新境地だ。

「自分たちがダイナミックなバンドである事が誇らしいよ。ダイナミックで質量感がって、あらゆる音楽やシーンに対応する事ができる。3人になってからのライヴは東京と大阪の2回しかやってないけど、もう新曲の形は変わり始めているし、これからも変化していくと思う。バトルスは進化を続けるバンドなのさ!」

彼らのオルタナティヴな闘い(バトル)は、まだまだ終わらない。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年04月28日 19:32

更新: 2011年04月28日 19:56

ソース: intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)

interview & text : 村尾泰郎