Marlene
写真:加納典明
かつての名曲と豪華メンバーと共にのぞむフュージョン回帰作
作品がいいと、聴きおわったとたんに、書きたくなる。そういう時は、取材前から書き始めている。マリーンがT-Squareの安藤正容とアルバムを作る。しかもマリーンの往年のヒットナンバーをリアレンジして録音する。この話を耳に挟んだ瞬間には小躍りし、それからずっと、出来上がるのを心待ちにしていた。欲しい物だったからだ。
思い出すと胸が熱くなるほど高校時代に没頭したフュージョンとよばれる音楽の、それも『マジック』のマリーン。近年も本田雅人B.B.Stationや熱帯ジャズ楽団とのコラボレーションで我々ジャズファンを沸かせてくれているが、ここへきてカシオペアの野呂一生や安部潤も登場して新しい解釈で名曲のあれやこれやを届けてくれるというのだから、これほど嬉しいことはない。
事実、仕上がったアルバム『イニシャル』(初めの、の意)はその名の通りまったく新鮮な、じつに美しくセーブの効いた大人のサウンドに仕上がって、「何もないところに立ち戻る」マリーンの誠実さが伝わってきていとおしい。
「いままでフュージョンからいったん離れていろんなチャレンジをしてきたけど、やっぱり戻ったらみんなすごく喜んでくれて。当時(デビューの頃)は右も左もわからなかったけれど、今回は歌うだけでなくアルバム制作のすべての過程にいて、ヴォーカルの細かい表情の隅々までこだわったんです」
《ESP》《Magic》はもちろん入っている。マリーンがずっと歌いたかったという《Skindo-Le-Le 》も入っている。阿川泰子さんの歌う《Skindo-Le-Le》が大好きで、憧れていたという。その頃阿川さんが37歳で、マリーンは自分も早く37歳になりたいと強く思ったのだそうである。
「永遠の37歳」への憧れの感覚は見事に昇華した。マリーンを愛して、フュージョンを愛して、当時からキャリアを重ねてきた強者たち──プロデューサー、参加ミュージシャン、スタッフの叡智も集結した。過去の栄光をものともせずにフレッシュに且つ原点回帰のスピリットは忘れられておらず、すがすがしい気合を感じる。これがベテランの仕事だろう。
辛くなったときも、明るい何かが始まる気分のときも、マリーンの伸びやかな歌声に身を浸してみてほしい。そして、心が折れそうになったらば、《Come Fly With Me》を聴こう。詞はマリーン、曲は安藤正容による、本作のために書き下ろされた唯一の曲だ。
"When your life has got you down, Don't give up it'll turn around.When your dreams have let you down, Don't look back we can make it right"
("好転するまであきらめないで。夢に落ち込まされても 振り返らないで。うまくいかせられるから")
「すべて投げ出してしまいたい、そう思った人に聴いてほしいんです」
いまのマリーンだから沁みる。いまの自分だからさらに沁みる。
『CD発売記念ライヴ』
5/7(土)名古屋ブルーノート
5/24(火)25(水)ブルーノート東京
6/2(木)3(金)ビルボードライブ大阪