インタビュー

Vilde Frang

シベリウスは私自身の言語、ルーツです

ノルウェー出身の若手ヴァイオリニスト、ヴィルデ・フラングは10歳でオーケストラとの共演でデビューを飾り、いまやヨーロッパ各地のオーケストラから招かれる逸材。コリヤ・ブラッハー、アナ・チュマチェンコに師事し、アンネ=ゾフィー・ムター、内田光子ら偉大なアーティストから大きな支援を受けている。

「ムターは私が11歳のときにノルウェーで演奏を聴いてくれ、以後ずっと応援してくれます。15歳のときにドイツに勉強にいらっしゃいといわれ、いまではツアーに同行させてくれ、レッスンも見てくれます。内田光子も室内楽を一緒に演奏したり、音楽論を語り合ったり。ふたりは私の大切なキーパーソンともいえる存在です」

フラングの演奏は大地に根を下ろした安定感と美しい自然を連想させ、冷涼な空気をただよわせる。

「デビューCDにシベリウスのヴァイオリン協奏曲を収録することができて、とても恵まれていると思います。この作品は昔から私の人生のなかにいつもある空気のような曲で、自分のルーツであるスカンジナヴィアの言語を内包している。自分のことばで語れる音楽なんです。フィンランドの過酷で荒涼とした自然を映し出していますが、私にはそれが深く理解できる。10代前半で最初に楽譜を見たときは、あたかも大きな山のように思えました。それを上ることが課題となったため、この曲は私にとってのマイルストーンといえると思います」

その山を徐々に上り、いつしか自分の音楽となった。だが、決して満足したり現状に甘んじたりはしない。

「常に自分を前に押し出すように心がけています。いま師事しているブラッハーはきびしいレッスンを行う人で、カデンツァなどつまらない演奏をすると窓から外を見ている。氷のシャワーを浴びせられるようです。一方、チュマチェンコは温かくて優しくて、私は自分が王女になったような気分になってしまう。まったく異なったレッスンです。私には両方が必要だと思っています」

チャイコフスキーも大好きで、ぜひヴァイオリン協奏曲を録音したいという。それはバレエを習っていたから。

「ヴァイオリンとバレエの両方を習っていて、13歳のときにどちらかを選択しなければならなくなり、一番自然に思えるヴァイオリンにしました。でも、バレエはいまでも大好きで、特に振り付けに興味を覚えます。時間があるとさまざまな振り付けを見に劇場に行くようにしています。バレエを見ると、演奏するときに役立つことが多いものですから。それから読書は欠かせません。小説、伝記、歴史物をよく読みます。演奏旅行で訪れた町をあちこち散策するのも好きで、東京も楽しみ(笑)」

ノーメイクで髪も自然のまま。とてもおだやかで真摯で前向き。多くの音楽家がサポートしたくなる何か不思議な雰囲気を備えている。もちろん演奏も自然体。会った人をみなファンにしてしまう魅力を放っている。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年05月11日 13:53

更新: 2011年05月12日 12:49

ソース: intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)

interview & text : 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)