千住明
合唱曲に新たな想いを乗せて~千住明が開く新たなうたの世界
合唱曲を集めた『グリー』を新たにリリースした千住明。そのアルバムには様々な思いが込められている。
「僕は作曲家として長いこと仕事をしてきましたが、これまで少しさまよっている部分もあったと思います。しかし合唱作品を書くことでようやく音楽の最後の扉を開けることが出来たような気がする。というのも音楽の初めには合唱があった。そして、それはずっと人々の中で歌い継がれてきたんです。楽器ができない人も、楽譜が読めない人も、合唱は出来る。そしてそのことによって、すべての人に対して合唱は訴えかけることが出来るんです。僕の最終的な到達地点は〈祈り〉だと想っているのですが、それが可能なのは合唱という形なんです」テレビ、映画、ポップスなど様々な音楽世界を歩いてきた千住明だが、これからは合唱曲に力を入れて行くという。
こちらの質問が始まる前に、彼は熱くその想いを語ってくれた。
「もちろん合唱曲を専門に書いている作曲家の方も多いですが、僕の書き方はちょっと違っていて、やっぱり詩が先にあり、しかもちゃんと音楽的な韻を踏んだ作品に曲を付けて行きたいと思っているんです。メロディやリズムをきちんと生かした合唱曲を書いて行きたい。みんなが歌 えるような作品で、しかも詩も曲もハーモニーも素晴らしい、そんな作品を書きたいんです」
そのきっかけとなった作品が詰まっているのも『グリー』の特徴だ。
「まず漫画『どんぐりの家』を映画化した時に書いた主題歌《心と心で》という作品があります。これはエヴァンゲリオンの主題歌などを歌っている高橋洋子さんが歌ってくれたのですが、その後合唱版が出来ました。《どんぐりの家》はろうの障害を持つ子供たちを描いた作品ですが、子供たちも手話でこの曲を一緒に歌ってくれた。その姿が感動的で、そこから新しい可能性、僕が書くべき音楽の可能性を教えられのです」
その後、NHK合唱コンクールの課題曲となる《夢の太陽》、早稲田大学グリークラブのために書いた《母なるものへ》など、次々と合唱曲が作曲された。
「早稲田のグリーの場合は、演奏会の後に出待ちされて依頼されたのですが、慶応出身の僕に依頼してくれたその気持ちに応えたいと思いましたね。今後追求していきたいのは《エターナル・ライト》という作品のような世界です。美しく、しかも心に響く合唱作品で、多くの人に、言葉を超えて歌い継がれるような作品です」もちろん日本語への関心も高い。東京文化会館で上演された《隅田川》《万葉集》といった日本の古典を題材にした作品にも今後も取り組んで行くという
「第9を歌っている合唱団はたくさんありますが、ぜひそういう方々にも日本語の作品を歌って欲しいと思います」