インタビュー

Sick Team 『Sick Team』

 

Sick! フレキシブルな感性でフリーに作り上げられたストリート・スマートなライフサイズ・ミュージック……噂の3人組がついにアルバムを完成させたぞ!!

 

 

昨年1月に代官山UNITで行われたGAGLEのリリース・パーティーで初ライヴを行い、その後の動向が注目されていた3人組ユニット、Sick Team。ラッパーのS.l.a.c.k.とISSUGI、そして、トラックメイカーのBudamunkという3つの才能が、表層的なトレンドやフォーマット化されたマナーのその先で、日常そのものであるヒップホップを深く、しなやかに追求するべく始動させた噂のプロジェクトがファースト・アルバム『Sick Team』を完成させた。

「日本のヒップホップに触れないまま、96年から10年くらいLAのシーンで活動していたんですけど、帰国後いっしょにやりたいと思う人になかなか会えなくて、たまたまMONJUのCDを見つけたんです。自分のなかでMCは言葉よりも、サウンドの聴こえ方で判断しちゃうところがあって、ISSUGIくんとかS.l.a.c.k.はノリでビートにフロウを乗っけてくる感じが自分のビートに合ってると思いましたね」(Budamunk)。

ピート・ロックやJ・ディラのように、シンプルでありながら、一聴してそれとわかる固有の深みを持つトラックメイカーを敬愛するBudamunkが、90年代半ばの黄金期と呼ばれるストレートなヒップホップを土台に、現在進行形で深化させたドープなトラックの数々。攻撃的かつストレートなヒップホップが展開される前半から、深みにずぶりと足を踏み入れていく中盤、そして、メロウな終盤へと移ろっていくアルバムの流れのなかで、ストレートなアプローチでグルーヴを加速させるISSUGI、動物的な直感で最良のスタイルを選び取るS.l.a.c.k.それぞれのラップがマキシマムなポイントで火花を散らすのが彼らのSickスタイルだ。

「Budaくんのビートはグルーヴがハンパなくて、初めて自分のラップを乗せた時、自分のラップがいつも以上にノってるように聴こえたし、上手く説明できないんですけど、トラックはシンプルでいて、1個1個の音が常に別々に動いているし、流行廃りを超えたところにBudaくんのスタイルがあるんです。〈これが流行ってます〉っていう情報でヒップホップを捉えている人も多いと思うんですけど、名前とか関係なく、自分の耳で聴いた時にヤバかったら、それでいいと思うんですよ。自分のラップにしても周りのことは気にせず、自分の好きなやり方を黙々とやってきたつもりなんですけど、2人と会ったことで自分がやってきたことは間違ってなかったんだなって」(ISSUGI)。

GAPPER(PSG)やMeccaGodZilla、OYG、mimismoothといった盟友に加えて、UNや元フリップモード・スクワッドの一員としても知られるロック・マルシアーノ、故J・ディラの実弟であるイラJ、そして、ダイレイテッド・ピープルズのエヴィデンスという海外のMCをフィーチャーした本作。ただし、そこには別天地としての海外進出やトレンドに対する目配せの意識はなく、日常の延長で音楽を追求していく過程で海外勢と相まみえ、言葉やビートを感覚的に交わしている点こそが圧倒的に新しい。

「俺は外から客観的に見たうえで判断するタイプなんですよ。それに対して、BudaくんやISSUGIくんはそのスタイルが心底好きで、ぐっと集中しながら自分の道を極めているところが羨ましくも感じますね。ただ、そういう違いはあるにせよ、みんな感覚で作っているという意味では共通しているし、それが現時点におけるSick Teamらしさなのかもしれないですね。でもまだ始まったばかりだし、俺らの持ってるものが交差し合っているので、これからどんどんおもしろくなっていくと思いますね」(S.l.a.c.k.)。

 

▼『Sick Team』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、ロック・マルシアーノの2010年作『Marcberg』(Fat Beats)、イラJの2008年作『Yancey Boys』(Delicious Vinyl)、エヴィデンスの2008年作『The Layover』(Decon)

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掲載: 2011年06月04日 00:02

更新: 2011年06月04日 00:02

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

インタヴュー・文/小野田雄