南博
Beloved music, beloved sound by beloved Pianist
南博、鈴木正人、芳垣安洋。日本ジャズ界を代表するメンバーが集結した 南博トリオが、3枚目のCD『ボディ・アンド・ソウル』をリリースした。まずはタイトル曲《ボディ・アンド・ソウル》を選んだ理由を訊いてみよう。
「ジャズファンじゃなくってもメロディぐらいはご存じではないか、ということと、あと曲としてもチャレンジングですしね。この曲にはベン・ウェブスターやコールマン・ホーキンスの名演があって、サックスの曲、というイメージがあるのを覆したかった」
ビリー・ストレイホーンの曲が2曲入っていますね?
「ストレイホーンの曲は、コード進行が普通のジャズ的ではないんですね。幾何学的でありながら叙情的、というか。クラシック好きで、ロシアの作曲家に詳しかったということで、僕もロシアの作曲家が好きだから、共通点があるのかもしれません」
今回のアルバムの演奏は、前2作に比べてさらに奔放で自在に聞こえる。それについてはどうだろう。
「ベースの鈴木くんは最初からすばらしいけど、最近ますますものすごくなった、ということが、そう聴こえる理由なんだと思います。このトリオでは、この曲はこうやろう、という決まりをいっさいしていないんです。だから同じ曲でも毎回変わりますね。
南博のもう一つのバンド、ゴー・ゼアは、アレンジされたオリジナルを演奏しているが、両者の立ち位置の違いはどうだろうか。
「ゴー・ゼアでも、最初の構想とは違うものになってしまうことはあるんです。メンバーがいちばんやりやすい方向に向かおうとしている、という点では、トリオとゴー・ゼアは共通していますね」
ところでこのアルバムは、東日本大震災の直前に録音されたそうだ。〈3.11〉以後、南博は何を考えてきたのかを尋ねてみた。
「地震のあとブログの日記も1ヶ月ぐらい書けなかったですね。言葉では言い表せないほどの哀しみと理不尽と不条理が渦巻いていて。宗教書なんかも読んだりしていたんですが、結局僕に出来ることは、普段の生活をしていい演奏をすることしかない、と。震災後最初の演奏は、3月15日、新宿ピットインのゴー・ゼアでした。お客さんは12人だったかな。もう感激しましてね、メンバーで輪になって、ぜったいにいい演奏をするぞ!と」
CDのリリースと軌を一にして、3作目のエッセイ集『マイ・フーリッシュ・ハート』が刊行された。抱腹絶倒のエピソードだけではなく、自身のうつ病体験が詳細に書かれている。
「うつ病のことを書くことによって、自分の状態を自覚できるんですね。書くことがうつを良くしていったのだと思っています」
では最後に、リスナーにメッセージを。
「ぜひとも、英語でいうところのBeloved Person、最愛の人と聴いていただきたいです。部屋にろうそくでもつけて(笑)」