Sinne Eeg
随所から垣間みえるスカンディナヴィア人としての自負
デンマークのコリング市が、愛知県安城市と姉妹都市を結ぶ友好関係だったことに端を発する。シーネ・エイは、二都市の交流促進のために安城市に招かれ、それがきっかけで幾度か日本を訪ねるようになったのだという。そして、震災以降、殊に福島原子力発電所の事故以降、海外のミュージシャンたちがためらう中での来日だ。「こういう大変なときだからこそ、危機に直面している国を避けるのはその国の人たちを悲しませることになるわ」と力強い。
そもそも、両親が音楽好きで、幼い頃から家では音楽が流れていた。
「人生の一部として音楽は存在してきた。普段から両親や叔父が居間でジャム・セッションを行うような家庭に育ったの。早く大人になって、そこに加わりたいと思っていた。だから、人生の方向を決めないといけないときには、音楽以外の選択肢なんてなかった」。ジャズを選んだのには、両親が所有していた膨大なレコード・コレクションに負うところが大きい。ジャズが、他の音楽と決定的に違うところを彼女はこう指摘する。
「即興性、つまりインプロビゼーションが楽しめることよ。ジャズのミュージシャンは常に好奇心に溢れていて、私もそうなんだけどステージに立ったとき、今日は何が起きるのだろう、昨日とはどこが違うんだろう、とわくわくさせられるの」
今回の『ブルーな予感』も、そうした日頃のジャズとの暮らしから生まれた。
「前作ではアメリカとデンマークのスタンダードを扱ったので、今回のはオリジナルにしたいと思っていたの。それと、これまで一緒にライヴをやってき仲間たちとそのままの流れでレコーディングに入りたかった」
その発言通りにほとんどが彼女のオリジナルだが、カバーも幾つかある。ただし、それらが違和感なく同居し、自然に独特の音楽の流れを作りだしているあたりが素晴らしく、しかもそこに彼女のエレガントな歌声が存在感を放つのである。
「『サウンド・オブ・ミュージック』は、子供の頃から大好きな映画なの。《マイ・フェイヴァリット・シングス》はいろんな人がカヴァーしているけど、《サウンド・オブ・ミュージック》をジャズ・ミュージシャンがカヴァーしているのは余り聴いたことがない。それで、冒険しようとやってみた。ジュリー・アンドリュースの歌う原曲が持つ美しさを失わず、でもミュージカル然としたものにはしたくなかった。現代のヒップな感じも出したかった。それにしても、(リチャード)ロジャース&(オスカー)ハマースタインは天才だわ、やってみてわかったんだけど、全く色褪せることなく現代にも通じるの」
そういった新しい発見もまた、彼女にとって音楽を通じて得られる人生の楽しみだ。今回のアルバムを通じて得たものについて訊ねると、こう返ってきた。「北欧の音楽とアメリカのジャズとのクロスオーバーをある程度表現できたんじゃないかと思います」と。