インタビュー

Dennis Russell Davies

ブルックナーとグラスの反復の中に〈高度な精神性〉を見る

リンツ・ブルックナー管弦楽団音楽監督として知られるデニス・ラッセル・デイヴィス、筆者にはやはりフィリップ・グラスの伝道師としてのイメージが強い。

「グラスと知り合ったのは1978年。歌劇『サチャグラハ』世界初演の指揮を頼まれたのですが、スケジュールの都合で実現せず、結局シュトゥットガルト初演を指揮しました。その後、彼に『アクナーテン』の作曲を委嘱したのですが、シュトゥットガルトの劇場が改装中だったため、ピットの小さな劇場で初演せざるを得なくなった。そこで彼にブラームスの《セレナーデ第2番イ長調》の楽譜を渡したんです。ヴァイオリン抜きでもオケが鳴る参考例としてね。シュトゥットガルトではこの2作に『浜辺のアインシュタイン』を加え、〈三部作〉として上演しましたが、いま私が音楽監督をしているリンツ州立歌劇場で新しい〈三部作〉の上演を考えているんです。グラスは『ガリレオ』を書き、『ケプラー』を書き、現在ニュートンを題材にした歌劇を書いていますからね。『アインシュタイン』を加えて〈科学者四部作〉にするのもいいかもしれない(笑)。もう一本、グラスは並行して『パーフェクト・アメリカン』という歌劇を作曲していますが、主人公はウォルト・ディズニーです」

デイヴィスによれば、グラスとブルックナーの音楽には、互いに相通じるものが存在するという。

「つまり、反復語法が音楽に巨大な空間性をもたらし、私が呼ぶところの〈高度な精神性〉が生まれてくるのです。ブルックナーの交響曲に関しては、実は全部の版を指揮してみたい(笑)。例えば以前録音した《交響曲第4番》の第1稿のヴァイオリンに出てくる五連符の大胆な書法と美しさは、よりポピュラーな第3稿には見られません。埋もれたままにするのは惜しい。一方、《交響曲第3番》に関しては、2013年のワーグナー・アニヴァーサリーの時に、ワーグナーの引用を含んだ第1稿を録音するつもりです」

未完の《交響曲第9番》の扱いはどうだろうか?

「友人の作曲家ハインツ・ヴィンベックが、第4楽章の草稿の断片を用いて作曲した新作《現在、そして死の時にJetzt und in der Stunde des Todes》を最近初演しました。ブルックナーが作曲中に参照していた『神々の黄昏』の引用も含まれています。マーラーの《交響曲第10番》についても言えますが、この種の作品は無理に〈完成〉させず、かつてベリオがシューベルトを補筆した《レンダリング》のように扱うのが、適切ではないかと思います」

震災直後、予定通り来日して二期会『フィガロの結婚』の公演準備をする姿がヒロイックに報道されたが。

「放射能のことも含め、あらゆる情報から判断し、キャンセルするに値する理由が見当たらなかったから、契約通り来日したまでのことです。放射能を過剰に心配するニューヨークの音楽家のことも知っていますが、彼らがニューヨーク・タイムズの記事だけで判断しているのは残念ですね」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年06月28日 19:00

ソース: intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)

interview & text :前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)