インタビュー

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督

鬼才が新しい試みで描き出した、人生という旅路の果て

『アモーレス・ペロス』『21グラム』『バベル』など、これまで複数のドラマを巧みに交差させながら、濃厚な人間ドラマを紡ぎ出してきたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督。注目の最新作『BIUTIFUL ビューティフル』では、ひとりの男に焦点を絞って生と死の物語に真正面から挑んだ。監督にとってこの初の試みは、大きな挑戦だったようだ。

「全ての物語に、その物語を語る最適な方法があると思う。でも、こういった直線的な物語は非常に難しいと感じたよ。なぜならズルすることができないし、物語から隠れることができないからね。つまり、本当に物語がしっかりしていないと、いろんな事が露呈されてしまうんだ。私にとっては非常に難しい挑戦だったよ」

今回の物語は、癌を宣告されて余命わずかな男、ウスバルが、いかに家族や自分の人生と向きあうかを、イニャリトゥらしい緊張感溢れる演出で描き出していく。バルセロナの裏町で、非合法な仕事を請負いながら二人の子どもの面倒を見ているウスバルを演じたのは、『ノーカントリー』でスペイン人では初めてアカデミー賞を受賞したハビエル・バルデムだ。

「彼は撮影をしている5か月間、キャラクターに入り込んでいて、そこから抜け出せなかったと思うね。ウスバルの痛みや苦しみを理解し、役に入り込まなくてはウスバルを演じきれないから、彼はプライベートの時も気を抜くことができなかったんじゃないかと思う。それにプライベートの彼はウスバルとは真逆のキャラクターだったから大変だったんじゃないかな」

確かにバルデムの演技には鬼気迫るものがあるが、さらに彼を取り巻く移民達や、バルセロナという街もまた物語に奥行きを与えている。そして、そうした物語を彩るのが、グスターボ・サンタオラヤの手掛けたスコアやアンダーワールドなど多彩な音楽だ。

「私が音楽を選ぶとき、まず、映画を音楽に例えた時、どんなジャンルに属するかを考える。今回の映画は『バベル』のピアノ協奏曲からインスパイアされたんだけど、とてもメランコリックな曲だったので、それが全体のトーンになったんだ。それから、作曲家に作品のテーマとなるような心動かす曲を作ってもらう。そして最後に、脚本から推測しながら、キャラクターたちがどんな音楽を聞くのかを想像して選曲していく。自分の好みと重ね合わせながらね」

真っすぐな語り口ではありながらも、監督らしく多彩な要素が織り込まれた本作。それでいて、たったワンワードの簡潔なタイトルについて、監督は「主人公がたどる重苦しい旅は美しい体験でもある。そこには愛があるからね」と語ってくれた。だからこそ、ここに描かれた〈死〉は〈生〉のように輝いているのだ。

©2009 MENAGE ATROZ S. de R.L. de C.V., MOD PRODUCCIONES, S.L. and IKIRU FILMS S.L.

映画『BIUTIFUL  ビューティフル』
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 音楽:グスターボ・サンタオラヤ 
出演:ハビエル・バルデム/マリセル・アルバレス/エドゥアルド・フェルナンデス/他
配給:ファントム・フィルム(スペイン・メキシコ 2009年)
◎6/25(土)より、TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!
http://www.biutiful.jp

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年06月30日 13:00

更新: 2011年06月30日 21:11

ソース: intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)

interview & text:村尾泰郎