NIKIIE 『*(NOTES)』
周囲と上手く馴染めず、引きこもりがちだった中学時代。友達にも親にも打ち明けられない心の葛藤や迷いを、NIKIIEは一冊のノートに書き殴っていたという。それは彼女の存在証明であると同時に、表現の原点だと言っていい。“春夏秋冬”“HIDE&SEEK”“紫陽花”といったシングルを含む初作に『*(NOTES)』というタイトルを冠したのも、極めて当然のことだろう。
「デビュー前、これからどういう作品を作っていこうかと話している段階でファースト・アルバムのタイトルも決めていました。中学のときに書いていたものが歌詞に繋がっていったし、自分の気持ちがいちばん直接的に伝わる言葉はやっぱり〈NOTES〉だろうなって。私自身、その人の生き方や考え方、迷いなんかが垣間見える音楽が好きなんですよね。例えばベン・フォールズもそう。皮肉ってるところもあるんだけど、決して自分を否定してなくて、〈ここから抜け出したい〉っていう気持ちが伝わってくるんですよね、彼の歌は」。
〈お願いそこから私の名前を呼んで/暗闇に食べられても聞こえるように〉というフレーズが胸を打つ“NAME”に象徴されるように、「自分の居場所が見い出せない、本当の自分を見つけたい」という切実な思いから生まれることが多いというNIKIIEの楽曲。しかし、それはただ重苦しいだけでもなければ、自己憐憫に終始するわけでもなく、洗練されたメロディーラインと抑制の効いたアレンジによって、誰もが享受できるポップソングへと昇華されている。例えば“Kiss Me”の洋楽的な旋律に触れてもらえば、彼女のカラフルなソングライティングのセンスを感じられるはずだ。
「メロディーから曲を作るときは、英語の歌詞がいっしょに出てくることが多いんです。そこに日本語を当てはめようとすると、どうしてもダサくなっちゃうというか、上手く形にできない時期があって。でも英語と日本語から成る“Kiss Me”は、そんなことはまったく考えず、本能のまま書いたんですよね(笑)。こういう洋楽っぽいメロディーも自分のなかの一部だし、なるべく殺さないようにしたいなって」。
また、ほぼすべての曲でみずからピアノを演奏していることも、この作品の支柱になっている。佐野康夫、西川進、河村“カースケ”智康、鹿島達也といった凄腕のミュージシャンたちとのセッションは当然、彼女にとって大きな刺激となったはずだ。
「今回は〈初めまして〉のアルバムだし、できるだけ自分でピアノを弾きたかったんです。ライヴでも弾いてるし、手癖みたいなものも含めて、私が弾くことで曲になる感じがあるので。ほとんどの曲を〈せーの〉でレコーディングしたんですが、最初は不安でした。凄いミュージシャンの方たちばかりだし、いっしょに弾いていいのかな? って。でも、アレンジャーとして参加いただいた根岸孝旨さんが〈本人が弾いてこそ〉という考え方で、〈下手でもいいから弾いて〉って言われて(笑)。お互いのグルーヴを感じながら演奏するのは楽しいし、このアルバムからもミュージシャン同士の呼吸を感じてもらえると思います」。
デビューからの経験のなかで表現の幅が広がったと思う、と嬉しそうに話すNIKIIE。その視線はすでに未来へと向けられている。
「実はサード・アルバムまで構想があるんですよ(笑)。でも、アルバムをリリースした後のツアーのなかで変化するところもあるだろうし、そのときに感じていることを表現できたらいいなと思っています。3.11の震災の直後はなかなか歌詞が書けなかったんですけど、少しずつ新しい曲も出来ていて。〈また、ここから〉という気持ちも大きいですね」。
PROFILE/NIKIIE
87年生まれ、茨城出身のシンガー・ソングライター。4歳の頃からピアノ教室へ通って音楽に親しみ、16歳で作詞・作曲を開始。 オーストラリアでのホームステイ経験をきっかけに、本格的に楽曲制作を始める。高校時代にはバンド活動も行い、ベン・フォールズやキャロル・キング、ヴァネッサ・カールトンらの影響を受けて、17歳から本格的にソロでのライヴ活動をスタート。 高校卒業に伴う上京後もライヴを続け、 2010年12月にシングル“春夏秋冬”でデビューを果たす。今年に入って3月にセカンド・シングル“HIDE & SEEK”をリリース。4月には“紫陽花”の無料配信でも話題を集め、7月13日にファースト・アルバム『*(NOTES)』(コロムビア)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年07月14日 17:09
更新: 2011年07月14日 17:23
ソース: bounce 333号 (2011年6月25日発行)
インタヴュー・文/森 朋之