Georges Pludermacher
作品が生まれた時代の響きを探求し、斬新な奏法を見出す
フランスの実力派ピアニストとして知られるジョルジュ・プルーデルマッハーは、古典から現代作品まで幅広いレパートリーを誇る。録音も多く、モーツァルトとシューベルトのピアノ・ソナタ全曲、ドビュッシーの練習曲などで独創的な解釈を見せ、ベートーヴェンの《ディアベリ変奏曲》では賞も受賞。ラヴェルも評価が高い。
「ラヴェルやドビュッシーを演奏するときにもっとも大切なのは、両者の交流、時代背景、その時代の政治などを知ることです。そのなかで彼らがどのような楽器を用い、何を表現したかったかを探求していく。ふたりは響きも様式も異なり、ラヴェルは古典的な様式のなかで音による官能的な感覚を追求。ドビュッシーは革新的な試みでチャレンジ精神を発揮。その違いが興味深い」
プルーデルマッハーも常に冒険心を失わず、リストの肖像画からその手の動きを学び、それにより時代の楽器の変遷を研究し、リストがベートーヴェンの交響曲の編曲を行ったことに触発され、ストラヴィンスキーの《春の祭典》の編曲を行い、4月の来日公演でも披露した。
「私自身の考えですが、リストは自分の演奏のためにベートーヴェンの交響曲の編曲を行い、作曲技法の変化も求め、キャリアのなかでもっとも重要な仕事を成し遂げたのだと思います。私も作曲を少し行いますので、《春の祭典》の編曲は楽しみながらできました。なにしろこの曲は14歳のときから弾いていますからね(笑)」
最近大きな話題となったのは、ベートーヴェンのライヴ録音で、〈ハーモニック・ペダル〉と題された新たな第4ペダルを使用したこと。これは既存のペダルに新たなペダルを加え、それを半踏みの状態で用いることにより保持したい音を伸ばすことができ、同時に共鳴も得られる。ただし、新たな楽器にこれを導入しなければならないため、現在それを試作中だという。
「この構造と音の変化をことばで表現するのは非常に難しいのです。断面図を見ながらですとわかりやすい。私がこれを使用したいと思ったのはベートーヴェンの《ワルトシュタイン・ソナタ》を弾いていたときで、当時のやわらかい響きが出せると思ったからです。それから各メーカーに第4ペダルを備えたピアノの制作を依頼したのですが、なかなか理解してもらえず、いまは中国のピアノメーカーが試作品を作っています」
プルーデルマッハーはベートーヴェンがどんな響きを求めていたかを分析するなかでこのペダルに行き着き、現在もひたすら探求している。彼は偉大な作曲家たちが残した楽譜以外に手紙、弟子たちの文章、そして肖像画や写真などが演奏解釈にとても役立つという。
「ピアノをオーケストラ的な立体感をもって響かせたい。それにはからだの使いかたも大切。鍵盤にどう重さを乗せ、反動を生かすか。からだを効率よく動かすと、実に自然に見える。その動きの意義も追求しています」