Mop of Head 『RETRONIX』
2000年代前半に台頭した、ROVOやJO-UJOUKA、WRENCH、Stroboなど、トランスとロックを融合させたさまざまなバンドたち——その流れをより激しく、よりポップに受け継ぐような超新星が久々に登場した。それが、2006年にGeorgeを中心に結成されたインストゥルメンタル・ダンス・ロック・バンド、Mop of Headだ。
「僕はもともとクラシック・ピアノをやってたんですけど、クラシックって完成されている音楽に近付くという方法論で、それは自分のやりたい音楽ではないと感じていたんです。それで、その後ジャズ・ピアノに転向して、ジャズのなかのダンス・ミュージックに魅力を感じて。その流れから後期のマイルスにハマって、ギターやロックっぽい要素が入り込んだ感じですね」。
中学時代の同級生である前任のドラマー(現在はSakuに替わっている)、高校時代の同級生であるギターのTakuma Kikuchi、大学時代の同級生であるベースのHitomi Kuramochiと、時間をかけて音楽好きのメンバーを集めて結成。レッド・ツェッペリンやAC/DCあたりを彷彿とさせるビッグなリフ、機材による同期やループを一切行わない激しく荒々しいライヴで次第に注目を集めていく。
「バンドのコンセプトはトラックで勝負できること。昔のロックみたいな豪快なリフ一発でも勝負できるバンドなんです。基本的には自分が持っていきたい方向性をメンバーに叩き込むって感じだったんですけど、各々のバックボーンが異なっているから叩き込んでも解釈が違ってくる。それがバンド・サウンドに反映されてすごくおもしろくなっていったんです」
ファースト・アルバム『RETRONIX』は、そんなメンバー個々のカラフルな嗜好とジョージのめざす方向性が、聴き手の耳と身体に激しい摩擦を生み出す巨大な運動体となって驀進している。ミッシェル・ガン・エレファンント“CISCO 〜想い出のサンフランシスコ(She's gone)”をよりハードに解釈したようなガレージ・トランス“Davala”、ダブステップを人力で解釈した“THE WORLD”など、血気盛んな感性とダンス・ミュージックの新風が融合し、フレッシュな音像を確立している。
「“THE WORLD”はリトル・ドラゴンとか、UKベース・ミュージックの香りを持ったバンドが出てきているなか、僕らも採り入れたんですけど、まんまにはならなかったです(笑)。“Davala”はメンバーが好きなハードコア・ガレージの勢いがそのまま出た曲。そういったバンドのアンコントロールな部分と、1曲として聴けるためにコントロールしている部分のバランスを取っていきたいです」。
そうしたバランスを保つのに大きく貢献しているのが“Love Pop Dance Music”や“Delyte”などから迸るポップなメロディーだろう。インスト中心でありながら饒舌に紡がれる旋律は、同期を取らない野獣系のグルーヴに何とも言えぬ聴き心地の良さを与えている。
「音楽の歴史はそもそもインストで始まっていますよね。昔はそれがスタンダードで、そこからポップが生まれてきた。その流れと歴史を体験してもらいたくて『RETRONIX』って付けたんです。僕らはインストだけどシーンのなかにこもることなく打って出ていきたい。そのために自分が勉強してきた音楽のルールを駆使してポップをめざす。自分たちの快感を外に持って行きたいんですよ」。
ポップであることに自覚的である一方、リミックスではDJ RAYMOND(TheSA-MOS)ら気鋭のアーティストを起用している。なかでもUKの大御所クリエイター、セイジのリミックスはBBC Radio 1でジャイルズ・ピーターソンにプレイされた。過去と未来をグルーヴで貫き、ポップに解放する音楽戦士、Mop of Head。その道の先には世界が見えている。
PROFILE/Mop of Head
George(マシーン)、Hitomi Kuramochi(ベース)、Takuma Kikuchi(ギター)、Saku(ドラムス)から成る4人組。2006年、Georgeを中心に結成。都内を中心に精力的なライヴ活動を行う。2009年8月にライヴ会場限定でEP『Mop of Head EP』を発表し、即ソールドアウト。2010年6月にオリジナル・メンバーであったドラムスのWakayamaが脱退、10月にSakuが新たに加わって現在の編成に。その頃から、m-floの☆Taku Takahashiやジャイルズ・ピーターソンがパーティーや自身のラジオ番組に楽曲が取り上げられて話題となる。2011年4月に先のEPが枚数限定で全国流通される。このたびファースト・アルバム『RETRONIX』(CONNECTION)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年07月20日 23:37
更新: 2011年07月20日 23:38
ソース: bounce 334号 (2011年7月25日発行)
インタヴュー・文/佐藤 譲