Nemanja Radulović
演奏することの喜びが伝わってくる、至福の時間を。
©Caroline Doutre- Transart
コソボ紛争下のベオグラードでヴァイオリンを始めた少年が、今やパリを拠点に世界のステージで活躍する若きカリスマに。日本でも2007年の『ラ・フォルジュルネ・オ・ジャポン』以来その人気は高まるばかり。今年3月2日の公演前には東京でファンクラブ交流イヴェントも開かれ大盛況だった。
「僕自身にとってもサプライズだったし貴重な体験になったよ。支えてくれる皆さんと直に接することができて凄く嬉しかった」
今回は最新盤『悪魔のトリル』弦楽ユニットを率いての来日。大小の弦楽器がずらり並んだ舞台は圧巻だった。
「ピアノやオーケストラで聴き慣れている楽曲が、弦楽六重奏版でもこんな風に素敵に演奏できるんだって示したかった。もちろん初めて聴く人でも楽しめたと思う」
ヴィルトゥオーゾ的技巧が炸裂する伊バロックの巨匠タルティーニの表題曲他、アンサンブルの魅力が全開。
「音楽史を旅するような1枚に仕上がったと思う。時代や国の壁を越えて、作曲家の様々な様式を散りばめた」
もうひとつの最新盤である『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ集』ではがらりと品を変えて、世界中のアーティストから絶大な信頼を寄せられているピアニスト、スーザン・マノフとの見事な共演を聴かせる。
「彼女のことが大好きなんだ。とても陽気な人だからってだけじゃなくて(笑)、共演するといつも、フレージングを始め多くのことを学ばせてもらう…何しろ現代の名歌手たちと仕事を重ねている人だからね。しかも一緒に演奏していると、グループでのアンサンブルと同じくらい多様なコミュニケーションを交わしているような手応えを感じる。二人だけだから語り口が途切れることなく濃密に続いていくんだ。それも今回のようなベートーヴェンの傑作で! もう最高の気分だったよ」
演奏することの喜びを隠さず、素直に満喫している姿勢は聴衆にも幸福感をもたらす。
「レパートリーを広げていく上で一番大切にしているのは自分自身の気持ち。もちろんコンサート主催者の考えやレコード会社のプロデューサーの意見には常に耳を傾けるようにしている。でも好きじゃない曲をぜひにと請われても、たぶん演奏しないと思う。それには無理があるから。僕にとって音楽とはそういうものだからね。恐らく人生の8割ぐらいを音楽に捧げている気がするよ(笑)。そして残りは全て家族や友人たちのために費やす。特にツアーにでかける前は親しい人たちとたっぷり過ごして愛情をため込んでから出発するようにしてるんだ」
秋にはヴィヴァルディの《四季》他を収録した新譜を発売予定。11月には再び〈悪魔のトリル〉ユニットでの演奏会も予定されているのでお聴き逃しなく。
『無伴奏リサイタル』
11/22(火) 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール
『「悪魔のトリル」来日公演』
11/23(水・祝)三鷹市芸術文化センター
11/25(金)王子ホール
http://www.aspen.jp/