インタビュー

映画『ペーパーバード 幸せは翼にのって/Pájaros de papel』 エミリオ・アラゴン監督インタヴュー

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スペイン波乱の時代─無償の〈愛〉を語った美しい作品

毎秋、新宿の一映画館で開催される『ラテンビート映画祭』を数年前からお手伝いしている。昨年、7回目を迎えた。そのオープニング作となったのがアラゴン監督の『ペーパーバード』。オープニングにふさわしい無償の〈愛〉を語った美しい作品だった。

監督はキューバ・ハバナ生まれのスペイン人エミリオ・アラゴン。インタヴューというより親密な対話となった。監督との語らいに後から、映画で軽演劇一座の歌手役で出演していたカルメン・マチさんも加わった。

初の長編映画ということですが、完成度が高いですね。

「ありがとうございます。話は父の体験が下地になっています。いつか映像化したいと思っていましたから、熟した頃に撮れたことが幸いしたのでしょう」。

「(国民を敵味方にわけた)スペイン市民戦争、共和派の敗北、フランコ将軍の独裁のはじまりというスペインにとって波乱に富んだ時代が背景となっています。内戦は過酷です、いつの時代でも、どこで起きようが。隣人に対する視線が歪み傷つき、あるいはさもしくもなる。生きづらい。人の心は病む。そんな時代にも無償の〈愛〉を命を賭けてまもろうとする人もいる。そんな〈愛〉の物語を描きたいとおもったのです」

カリブ海諸国で生まれ育ったスペイン語族はたいていコメ・エセ(come ese)、「Sの音を食べ発音しない」という特有のイントネーションで話すのだが、アラゴン監督にはそれがなかった。たぶんスペインから亡命した共和派の家の子であった彼は、生活のなかで母語の発音を守らされたのだと思う。

映画のBGMはトリキティシャの音色。スペイン北部バスク地方特有のボタン式アコーディオン。映画の悲劇的な主人公で、空爆で愛児を失った喜劇役者ホルへの手持ち楽器として出てくる。バスクから出てきた男の象徴としてのトリキティシャ。吟遊詩人にとってのギターであり、リュートである。そしてバスクは反フランコ派の牙城でもあった。

「演奏はケパ・フンケラです」と監督。まだ30代と思うが、創造的なトリキティシャを聴かせるバスク出身の名手。そして、この映画は他のどんな楽器より蛇腹楽器の震振音が〈愛〉の揺らぎを語るにふさわしいものになっていた。タンゴのバンドネオンの揺らぎもほんらい、そういうものであったと評者は思っている。そして、この映画の音楽の大半を監督自身が書いているのだ!

後から話に加わったカルメン・マチさんが、フランコ将軍の訃報を聞いた日の思い出を語った。「朗報、といった感じで聞いたのよ。だって、まわりの大人たちがみんな華やいでいる感じだったもの」。

それがスペインがながい軍事独裁から解放された日だった。それからアラゴン監督も祖国で仕事をするようになった。

映画『ペーパーバード 幸せは翼にのって』

監督・脚本・音楽:エミリオ・アラゴン 
出演:イマノル・アリアス/ルイス・オマール/ロジェール・プリンセブ/カルメン・マチ  
配給:アルシネテラン(2010年   スペイン)
◎8月、銀座テアトルシネマ他にてロードショー
http://www.alcine-terran.com/paperbird

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年07月26日 13:06

更新: 2011年07月26日 13:28

ソース: intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)

interview & text:上野清士