AZARI & III 『Azari & III』
ハウス・ミュージックが本来持つセクシャルで危険な香り。それをいまもっとも体現しているのがアザリ&サードだ。コスモ・ヴィテッリが主宰するアイム・ア・クリシェから2009年に発表したデビュー・シングル“Hungry For The Power”(後にターボもライセンス)と、それに続く“Reckless(With Your Love)”は瞬く間に評判となり、エロール・アルカン、ミハエル・メイヤー、ジョアキム、ディクソン、ハーキュリーズ・アンド・ラヴ・アフェア、ロブ・ダ・バンク、ジャザノヴァ、シット・ロボット、DJ KYOKOといった多くのDJたちから賛辞を送られている。翌年のフレンドリー・ファイアーズとの共作曲“Stay Here”もさらなる援護となって、ダンスフロアからインディー・ロックのリスナーまでも虜にすることとなったのだ。
一応はプロデューサー兼DJのアリクサンダー・サードとダイナモ・アザリのコンビとしてスタートした彼らだが、後にヴォーカリストのフリッツ・ヘルダーとスターヴィング・イェット・フルがライヴ・メンバーとして加わり、現在の体制になっている。
「もともと皆エンターテイナーだったし、自然とこうなったんだよ。汚いカラオケバー、7万5000人集まるようなドバイでのコンサート、デトロイトの地下室でアンダーグラウンド・クラシックスをプレイしていたとしても、俺たちの時期がきたという実感があるんだ」(ダイナモ・アザリ)。
「そう……当時は違うところから、みんなが少しずつ重なり合うように繋がってきていたんだ。何か新しいことにチャレンジしたかったようにね」(フリッツ・ヘルダー)。
お互いが吸い寄られるように集まったアザリ&サードのおもしろさは、怪しげなルックスだけでなく、レトロ・ディスコやシカゴ・ハウス、エレクトロ、ミニマルといった要素をブレンドし、挑発的で、妖艶で、猥雑で、ポップなサウンドへと落とし込んだ点だろう。そのなかで最大のキモとなっているのが80年代サウンドへの憧憬で、実際メンバーも多大な影響を受けていることは認めている。
「俺はグレイス・ジョーンズの“Private Life”と“Pull Up To The Bumper”、そしてピーター・ガブリエルの曲すべてかな。特に彼がケイト・ブッシュと歌った“Don't Give Up”の影響で、若い頃からパフォーマンス・アートにも興味を持つようになったしね」(フリッツ)。
「9歳くらいの時にデペッシュ・モードの“Strange Love”という曲の影響を受けてSMにハマっていた。エディ・グラントの“Electric Avenue”も家で踊り狂うのに良かったよ」(アリクサンダー・サード)。
そんな彼のSM趣味は“Reckless(With Your Love)”のPVで発揮されているのでぜひチェックしてほしい! ちなみにPVといえば、周りの反応が「クスクス笑いか、最悪の状態かだね」(アリクサンダー)、「PVの結末を観ている瞬間の顔を見るのが凄く楽しいよ」(フリッツ)という“Hungry For The Power”からも彼らのちょっぴり倒錯した変態っぽさは伝わってきた。
さて、ダンス・ミュージックのアーティストがオリジナル・アルバムを制作すると、普通のポップスになってガッカリさせられることも多いが、今回完成したファースト・アルバム『Azari & III』には彼らが滋養としてきた名曲たちのDNAが息づき、ポップセンスとフロアライクな要素がバランス良く同居したものに仕上がっている。
「確かに、シングルとしてリリースした曲もアルバムに収録されているけど、全体を考えて作ったアルバムだったから、俺たちの意気込みの結晶になっている。一時的な興味から聴かれるだけではなく、時代を超えて共感できるアルバムに仕上がったようにも思えているよ」(アリクサンダー)。
『Azari & III』を聴けば、そんな力強い発言もまったく大袈裟に思えなくなることだろう。
PROFILE/アザリ&サード
ダイナモ・アザリとアリクサンダー・サードから成るカナダのエレクトロニック・デュオ(ライヴ時にはフリッツ・フェルダーとスターヴィング・イェット・フルを加えた4人編成となる)。個々の活動を経て2009年に結成され、同年にデビュー・シングル“Hungry For The Power”をリリース、クリープやアフィのリミックスでも脚光を浴びる。前後してパーマネント・ヴァケーションから発表した“Reckless(With Your Love)”がモデュラーやフールズ・ゴールドのライセンスもあって各国でヒットを記録。2010年の『Indigo EP』やフレンドリー・ファイアーズとのシングル“Stay Here”も話題を集めるなか、ファースト・アルバム『Azari & III』(Turbo/KSR)を7月27日にリリースした。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年07月28日 14:55
更新: 2011年07月28日 14:57
ソース: bounce 334号 (2011年7月25日発行)
インタヴュー・文/青木正之