インタビュー

TODDLA T 『Watch Me Dance』

 

次世代ビッグ・プロデューサーの超有望株がニンジャ・チューンから新作を投下……Watch Me Dance!

 

TODDLA T_A

 

ニンジャ・チューンが20周年を迎えた昨年、移籍を告げるウェイン・マーシャルとのシングル“Sky Surfing”を聴いた時から期待していたのだが……ついに届いたニュー・アルバム『Watch Me Dance』が素晴らしい! 前作『Skanky Skanky』(2009年)も相当ユニークな快作だったが、新作はそれすらも凌ぐものだろう。そもそもハーヴからマシーンズ・ドント・ケアの一員に抜擢されて脚光を浴びたトドラTだが、前作ではグライム+ダンスホール的なビートを往年のソウル〜ファンクと折衷したユニークなサウンドで引き出しの多さを見せていた。マット・ヘルダース(アークティック・モンキーズ)や直後にブレイクするティンチー・ストライダーも招いていたファースト・ステップについて、本人はこう振り返る。

「当時の俺はまだシェフィールドに住んでて、とにかくレコードを作りたかったから、自分のスタイルやサウンドをレコードに詰め込むことができてマジで嬉しかったね」。

それから数年、さまざまなリミックス仕事を手掛けつつ、DJプレイで世界を回りながら楽曲制作を続けていたという彼は、新作を仕上げるにあたってDJとしての側面とリスナーとしての側面を同時に表現しようとしたという。

  「一晩中パーティーするのがクラブに来る皆の目的だってことはわかってる。その雰囲気をいわゆるクラブ・ミュージックで作り出すのがDJとしての俺だよね。でも自分が音楽を聴く時の環境は、ラジオをつけてヒップホップを聴いて……クラブに向かう道中でも最新のヒップホップをチェックしてる。R&Bやレゲエもね。今回はそれらすべてを表現できる自信があったんだ」。

言うなれば、クラバーのためのリスニング・レコードといった趣だろうか。彼を〈ポスト・ディプロ〉と呼ぶ人が本当にいるのかは知らないが、少なくとも本作の音楽性にそのブランディングが適切なのかどうかは、90年代ヒップホップやUKソウル以降のアーバン作品を普通に流れで追ってきたリスナーならわかるはずだ。「子供の頃、近くに住んでた従兄弟がスヌープやメアリーJ・ブライジのファーストとか、いろんなCDを聴かせてくれてね。それが俺の音楽のルーツだな」と語る彼にとって、今作の方向性はレゲエやR&Bも含めた率直な原点確認なのかもしれない。

「そうそう。今回は自分がハマってきたすべての音楽が同等の役割を果たしてるんだ。前作にはその側面があまりなかったんだけど……前はそれをやるのが何か怖かったんだよな。でも、今回は挑戦した。周りの皆も気に入ってくれてるみたいで本当に良かったよ。今回は自分が好きだと確信できるトラックだけを選んだんだ」。

そんなわけで『Watch Me Dance』は、トドラ流のダンスホール・レゲエを主軸に、直球のブレイキンなヒップホップから古めかしいタイプのハウス、ネオ・ソウル以降の歌モノ、UKガラージの影響も色濃いベース・チューンまでを含みつつ、全体がゆったりと心地良くダブワイズされたように、一貫した芯のある内容となっている。2曲で各々違った表情を見せるミス・ダイナマイトを筆頭に、「トラックを作ってから候補者リストを作った」というコラボ相手の顔ぶれも興味深い。テリ・ウォーカーやショーラ・アーマといったUK歌姫、意外なロイシーン・マーフィ、マックスタやJ2Kといったグライム畑のMC、馴染みのルーツ・マヌーヴァや親友のセロシー……。なかでも実際にジャマイカに赴いてウェイン・マーシャルやティンバーリーのような本場の面々と手合わせしたことは、彼にとって実りの多いチャレンジだった。

「初のジャマイカへの旅だったけど、自分にとって大切な経験になったね。心から尊敬してる人たちだったから、自分のビートが受け入れてもらえるかどうか、最初は超緊張してた。でもそれが受け入れられて本当に嬉しかったよ」。

自身のDJやアーティスト活動と並行して、現在は自主レーベルのガールズ・ミュージックを運営し、そちらでも何かと注目を集めているトドラ。ロスカと組んだトドスカとしての活動も続けていくそうだし、ミス・ダイナマイトのアルバム(!)に参加する可能性もあるようで、ますます多忙になりそうだ。「良質で最高のヴァイブを持った作品を世の中に送り届けていく」という今後への期待も含め、この夏はまず『Watch Me Dance』をじっくり楽しんでみたい.

▼TODDLA Tの作品を紹介。

左から、トドラTの2009年作『Skanky Skanky』(1965)、トドラTの2009年のミックスCD『Fabriclive 47』(Fabric)、マシーンズ・ドント・ケアの2008年作『Machines Don't Care』(Machines Don't Care)

▼文中に登場した作品を紹介。

左から、ミス・ダイナマイトの2005年作『Judgement Days』(Polydor)、テリ・ウォーカーの2006年作『I Am Terri Walker』(Dekkor)、ショーラ・アーマの97年作『Much Love』(Wea)、ウェイン・マーシャルの2003年作『Marshall Law』(VP)

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掲載: 2011年08月04日 19:25

更新: 2011年08月04日 20:26

ソース: bounce 334号 (2011年7月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次