SEBASTIAN X 『FUTURES』
ちょっと前にモンゴルの音楽を聴いていたことがあるというから、今年の〈フジロック〉にも出演したハンガイというモンゴルのバンドがいいですよ、と教えてあげると、「聴かなきゃ!」と慌ててメモを取っていた。SEBASTIAN Xのヴォーカリストでソングライターの永原真夏とは、そのように素直なリスナー指向が強いアーティストだ。だが、実際にバンドの一員として奏でられる作品は、そうした知識や情報に決して縛られていない。むしろ、リスナーとしての趣味嗜好などはすっ飛ばし、衝動で鳴らしているような、そんななりふり構わない豪胆さがこのバンドの魅力となっている。ゆえに、その音楽性を一言で説明するのはとても難しい。一言で〈熱気溢れるロック〉とそこに尽きるからだ。
「去年あたりから、ライヴをやるなかでもっともっと音と戯れる感覚が欲しいなって思っていたんです。だから今回はレコーディングでもスタンドじゃなくてハンドマイクを使ったんです。〈もっとも丁寧なライヴ〉みたいなイメージで録音しました(笑)。それから、どこか伝えきれていない、というもどかしさがあって。そこをどう改善していくのかを今回ずっと考えていたんです」(永原真夏:以下同)。
結成から3年、ライヴでの集客も増やしてきているSEBASTIAN Xが、初のフル・アルバム『FUTURES』を完成させた。声量のある永原のヴォーカルを先鋒にして、一気にエネルギーを放出してくるような勢いは、相変わらず彼らのパフォーマンスさながらの凄まじさだ。だが、新作はそれだけでは終わらない。まるで強烈なパンチの後からボディーブロウがジンワリと沁みてくるような、いわば二重構造になっている。
「私ずっと、他のバンドも発散するためにライヴをやってるんだろうって思っていたんです(笑)。いろんな人に〈発散してるね〉って言われて、〈みんなそうでしょ?〉って。でも、そうじゃないってことに気付いたうえに、私自身もただ発散しているだけではダメだと思いはじめたんです。つまり、歌詞がバーンとあって演奏があって……というだけでは伝わらないんですよね」。
例えば『FUTURES』には、歌詞のなかに〈言葉にならない〉というジレンマが窺える表現がいくつか出てくる。それは、そのもどかしさの裏にまた別の言葉が隠されているというメッセージでもある。では、その別の言葉とはどういうものか——そこを音楽から感じ取ってほしい、と永原は話す。
「ライヴで歌詞として言葉を発しているはずなのに、それとは違う気持ちが(自分のなかに)あることに気付いたんです。もちろんこの言葉を歌いたいんだけど、それだけじゃないって。もうひとつの見えない歌詞があって……二重構造になってるんです(笑)。それを伝えるにはただ発散するような歌い方や演奏じゃダメなんです。別に話し合ったわけじゃないんですけど、メンバー全員がそういうことを考えていて。それが今回ちゃんと形になったと思います」。
基本的に永原が作曲しているのはこれまでと同様だが、今回はセッションしながらまとめていくことも重要視したという。そんなプロセスを経て出来上がった曲は、合宿レコーディングで完成された。だからこのアルバムは、さまざまな音楽的要素を孕んだ勢いのあるロックという以上に、二重、三重にエネルギーが押し寄せる手応えのある歌もの、と紹介したほうが良いかもしれない。そこには溌剌とした笑顔だけではなく、ちょっと立ち止まって足下を見つめるような冷静さ、少し不安な表情を見せるような戸惑いもあるからだ。
「ライヴ会場で対バンの人たちとかに普通のテンションで挨拶すると、愛想が悪いって思われたりするみたいなんですよ(笑)。どうもステージでの元気の良さがあたりまえみたいに思われてて(笑)。それだけじゃないということも今回のアルバムで伝わるんじゃないかな」。
PROFILE/SEBASTIAN X
永原真夏(ヴォーカル)、飯田裕(ベース)、沖山良太(ドラムス)、工藤歩里(キーボード)から成る4人組。2008年に結成し、ハイペースにライヴ活動を展開。同年に自主制作でアルバム『LIFE VS LIFE』を発表。翌2009年11月に初の全国流通盤となるミニ・アルバム『ワンダフル・ワールド』をリリース。この頃から全国各地でステージを踏むようになり、ハイテンションなライヴ・パフォーマンスも相まって徐々に認知を広げる。2010年には2枚目のミニ・アルバム『僕らのファンタジー』を、今年1月に配信限定シングル“光のたてがみ”を発表。イヴェントなどにも精力的に出演して注目を集めるなか、ファースト・フル・アルバム『FUTURES』(HIP LAND)をリリースしたばかり。
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掲載: 2011年10月06日 22:15
更新: 2011年10月06日 22:15
ソース: bounce 336号 (2011年9月25日発行)
インタヴュー・文/岡村詩野