インタビュー

田部京子


昔から弾きたかったブラームスで真価発揮



 

 

田部京子がブラームスの作品に出合ったのは、17歳のときに受けた日本音楽コンクールの第2次予選で課題曲となっていた「3つの間奏曲Op.117」。当 時は作品の内面の深さ、構成、立体的なハーモニー、本質などがまだ十分に理解できず、自身の演奏に納得できなかった。その後、ベルリン留学を終え、帰国リ サイタルではブラームスのピアノ・ソナタ第3番を選び、それがレコード会社との契約につながることになる。

 

「ブラームスの渋さ、情熱、ロマンが混在したところに惹かれます。ただし、作品の奥深さはたとえようもなく、自分の成長と共に理解が深まってきた感じ。ようやく録音ができ、感無量です」

彼女は現在もベルリンに拠点を持ち、静けさと特有の空気を味わいにたびたび訪れる。

「今回はブラームスの第1編集のテープを携えてベルリンの部屋で聴いたのですが、作品が内包する北国特有の冷涼、寂寥、その奥に潜む温かさなどがジワーッと押し寄せてきて、至福のひとときを過ごすことができました。特に後期の作品は幾重にも連なる音の層があり、それらは複雑に重なり合い、音量と音色とフレージングに関して両手の微妙なコントロールを要します。最も大切なのはレガートで、この奏法が非常に難しい。内声の表現も大切、しかも小さなモチーフや裏に隠れているメロディの扱いにもこまやかな神経を張り巡らせなければならない。とても緻密に書かれていますから、すべてを把握しないと弾けませんね」

彼女はドイツのオーケストラや室内楽を聴くなどして、ブラームスの全体像に歩み寄ってきた。

「実は、留学するためにベルリンに行った翌日、アバド指揮ベルリン・フィルの演奏でブラームスの交響曲第三番を聴いたんです。感動のあまり、まさにノックアウトされた感じ(笑)。ああ、ベルリンに来てよかったと思いました。それからよりブラームスが好きになり、常にさまざまな作品を勉強してきました。今後はカルミナ四重奏団とも組み、室内楽にも積極的に取り組みたいですね」

今回の録音では「6つのピアノ小品Op.118」「4つのピアノ小品Op.119」が含まれる。これらは小品と訳されるが、内容はとても濃密だ。

「古典に根差し、構成はシンプルですが技術的にも表現力の面でも成熟されたものを要求されます。いまようやくこうした作品に少し近づけた感じがします。ブラームスの初録音で長年の夢が実現しました。今後は舞台でも演奏していきたい」

 

 

LIVE INFORMATION
『日本フィルハーモニー交響楽団第637回定期演奏会』
2012年1月20日(金)19:00
1月21日(土)14:00
会場:サントリーホール
ラン・シュイ(指揮)

『田部京子・矢部達哉・古川展生 ソロ・デュオ・トリオ!』
2012年4月14日(土)
会場:福崎エルデホール

『田部京子B×B(ベートーヴェン・ブラームス)Worksシリーズ第1回 』
2012年5月31日(木) 19:00
会場:浜離宮朝日ホール

タワーレコード渋谷店6Fにてインストア・イヴェント決定!
2012年2月11日(土)15:00~
ミニライヴ&サイン会

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年12月16日 11:38

ソース: intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)

取材・文 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)