インタビュー

マリウシュ・クヴィエチェン


「ドン・ジョヴァンニは、甘い声の悪党」

モーツァルトのオペラ、『ドン・ジョヴァンニ』の主人公は世界のバリトン歌手が「一度は歌ってみたい」と憧れる役。ポーランドのマリウシュ・クヴィエチェンは9年前、日本の「小澤征爾音楽塾オペラ」で初めて歌い、今シーズンはニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(メット)の「ライブビューイング」にも登場、東京の新国立劇場でも来年四月の主演が決まっている。筆者は2009年にパリ・バスティーユ歌劇場でシマノフスキ「ロジェ王」(大野和士指揮)題名役以来毎年、クヴィエチェンの舞台に接してきた。いつも役に徹しきり、洗練された様式感と美声で魅了するが、素顔も真摯な、好青年そのものだった。

──クラクフからワルシャワを経てニューヨーク、メットの研修所で学ばれたのですね。

「ポーランドが共産主義国だった時代はヴィエスワフ・オフマン(テノール)ら特別なビザを持つ一握りのスターか、テレサ・ジリス=ガラ(ソプラノ)のように二度と帰国しなかった人しか、国外で活躍できませんでした。私は冷戦の終結後、自由に世界を行き来できる最初の世代に属し、ニューヨークで学ぶ機会を得たのです。メットの研修所は多額の予算を投じ、歌手の音楽性、俳優としての演技力、テキストの正しい発音に磨きをかけ、どんどん舞台に立たせて投資を回収します。今のメットでは名前のみ有名でも、岩みたいにそびえ立つだけの演技しか出来ない歌手の出番はありません。メット日本公演ではロドルフォ役のテノール、ピョートル・ベチャワもポーランド人という珍しい配役でしたが、生粋のイタリア人であるバルバラ・フリットリのミミを交え、最高の上演を達成できました」

──新作はスラブ・オペラのアリアが中心です。

「私の意図は『知られざる作品の紹介』にありました。ただオネーギンのアリアだけは有名ながら、私の〈名刺代わり〉で入れました。舞台で大きな成功を得る上でも故郷クラクフで妻子や両親、友人と過ごす時間は貴重です。公私の時間を兼ね、クラクフの歌劇場でマスターした役です。そしてマゼッパ、イーゴリ公は〈将来の私〉の役。モシューシコ、シマノフスキはポーランド人の努めとして、積極的に広めたいと思いました」

──ドン・ジョヴァンニについて一言。

「甘い声の悪党。私は間もなく40歳。せめて45歳まではカッコ良く誘惑者を演じられるよう、フィットネス・ジムで頑張っています」

LIVE INFORMATION
2012年4/19, 22, 24, 27, 29
新国立劇場「ドン・ジョヴァンニ」にタイトルロールで出演予定。


カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年01月20日 20:32

ソース: intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)

取材・文 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)