インタビュー

INTERVIEW(2)――音楽の導きに任せようって決めていた



音楽の導きに任せようって決めていた



彼女のそんなオープンマインドな嗜好は、自分の出自と深く関係しているそうだ。というのもハイファは地中海に面したレバノン国境に近い町で、3千年に渡る歴史を通じてさまざまな国や民族が統治してきたため、ユダヤ人以外の民族の人口比率が非常に高い。

「たくさんのカルチャーや民族が出会う場所で育ったからこそ、私は音楽に対してオープンマインドなんだと思う。世界中の音楽が好きで、その要素が自然に曲に現れるままに任せていて、私の音楽は必然的に、たくさんのアイデアに揉まれて生まれるわ」とマーヤン。彼女いわく、そもそも70~80年代のイスラエル音楽はトロピカリア・ムーヴメントなどブラジル音楽の影響を強く受けているのだそう(「ボサノヴァのメロディーやハーモニーの物悲しさに、イスラエルの伝統音楽に通ずる部分があるのかもしれないわ」)。

また、レゲエもやはりイスラエルではポピュラーだそうで、ボブ・マーリーを敬愛するマーヤンは「〈ソウルの在り処〉という意味において私のソウル・ミュージック」とレゲエを位置付ける。ほかにもピクシーズやレディオヘッドから両親を介して聴き始めたスティーヴィー・ワンダーやレナード・コーエンまで、フェイヴァリットに挙げる名前は実に幅広く、旅行好きの彼女は滞在先でもいつも現地の音楽を学んで刺激を受けているというから、こういうアルバムに仕上がったのも無理はないか?

「最初のアルバムはそれまでの私の人生の証にしたかったの。マルチ・カルチュラルで、折衷的で、レゲエをひとつの基点としていて、ヒップホップ的なプロダクションを採り入れていて……。すべてが当時私のいた場所を物語っているわけ。そしてその場所を誠実に映した作品をめざしたの。私のなかに蓄積されていた影響源の只中に身を置いて、境界線を一切設けたりしないで、どこだろうと音楽が導いてくれるままに任せようって決めていたのよ。そして、スティーヴとレオとコラボできる幸運な機会にも恵まれたから、さまざまな曲、さまざまな音楽スタイル、そしてそれぞれのヴァイブのなかに共通項を見い出しつつ、3人で全体をひとつに繋いでいったの」。

このようなスタンスで取り組んだ作品だけに、歌詞は言うまでもなく実体験を題材にしており、主に恋愛など人間関係を描いた曲に交じって、“One”や“Rhapsody”など融和を訴えるメッセージ・ソングが聴こえてくることに注目したいところ。その普遍的かつスピリチュアルな語り口はあきらかにボブ・マーリーの影響を窺わせるが、これまたイスラエルにあるルーツが形作った彼女の価値観・世界観と切り離せないものだ。

「ハイファの住民はイスラエル系だろうがアラブ系だろうが、誰もが何らかの抑圧や迫害を受けた歴史を持ってるから、私にとっては、可能な限り音楽を通じてポジティヴなメッセージを伝えることもすごく重要なのよ。何しろ、母方の家族はホロコーストを生き延びた人たちだし、平和の実現に協力できることなら何でも積極的に関わっているわ。自分の周りを見ると、世の中は不公平で争いに満ちていて、ボブが夢見た世界はまだ実現されていないって感じるから、人をインスパイアする曲を時々書かずにはいられないの。とはいえ、ソングライティングって世界でいちばん難しくていちばん充足感を与えてくれる行為だと思うし、中毒性もあるし、テーマが何であれ私はこれからも曲作りを続けるんでしょうね」。

そんなわけで、サウンドメイカーとしてもリリシストとしても多様な表現を携えているがゆえに、掴みどころのない印象を与えるかもしれないし、今後どのように変化していくのか予測がつかない人でもある。が、それがマーヤンの魅力でもあり、彼女をユニークな存在にしている所以。いまのところは1年後、2年後を楽しみにしながら、絶え間なく変化し続ける『Walk On Water』のソウルフルでエキゾティックな風景をじっくりと味わいたい。


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掲載: 2012年01月25日 18:01

更新: 2012年01月25日 18:01

インタヴュー・文/新谷洋子

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