インタビュー

渡辺俊美

『モンクのソロとか、すげえなって言っちゃうもんね』

みずからのソロ・ユニットTHE ZOOT 16(祝ベスト盤リリース)がズート・シムズを好きなことにも由来するほど、渡辺俊美のジャズ好きは有名である。そんな彼が、彼女にプレゼントするミックステープ作りに近い感覚で制作していたというジャズ・コンピ・シリーズ『Brushing Works Inter Play』が、このたび復活する運びとなった。第1弾として登場するのは、04年から05年にかけてリリースされた4タイトルの中からのベスト・セレクション。コンコードやコンテンポラリーなどに残されたマイナーながらも美味なる女性ヴォーカル曲などが並ぶ本作は、いつだって相手を突き放したりすることなく、お前のこういうところが大好きだ! と熱く叫ぶ彼の性格がまんま反映された1枚であったりもする。

「このあいだ『ゴッドファーザー』を観返したんですけど、お店を始めた頃の20代のときと、45歳の今とでは得る感覚がぜんぜん違った。ジャズもそういうものだと思って。改めてこのソロが好きになったとか、自分の中でもつねに新発見がある」

年齢によって変化する身体のリズムに応じて楽しみ方も変わる。それはジャズファンなら誰もが知っている感覚なはず。だからジャズのコンピは永遠に何パターンもできると彼は笑う。ちなみにもっとも好きなジャズアルバムは? と訊ねると、ヴィレッジ・ヴァンガード詣でを行い、同モデルのサングラスを作ってしまったほど、ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビィ』を愛していると返ってきた。「あの猫背の感覚がいい」。個として屹立する猫背の男のカッコ良さについて、彼はリズミカルに話していく。「理想の音楽の形は本当の意味でのソロ。すごい自慰行為を他人に納得させる力っていうか、セロニアス・モンクのソロとか、すげえなって言っちゃうもんね」。

「ジャズの魅力は、答えがないこと。清水ミチコさんがジャズは落語に近いと言ってたけど、わかる! と思った。で、ヒップホップは漫談。歌謡曲やポップスはショートコントね。決まったフォーマットのなかでひたすら自由に演じられる音楽はジャズしかない。そういう意味じゃ、時代小説の作家もジャズマンに近いような気がする」

もうじき、現在の彼のリズムに即して編まれた新しいコンピが届くだろう。「今度はヴァーヴなんかの音源も使えると思うんだけど、ヴァーヴ……エロいっすよね」とほくそ笑む俊美さん。こっちも思わずニヤニヤしながら待ってます。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年03月02日 19:25

ソース: intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)

取材・文 桑原シロー