インタビュー

ベン・ウィリアムズ

「折衷」を乗り越える新世代のバランス感覚

「僕は色々なアイデアやスタイルを取り入れるけど、大事なのはそこに意味があるかどうかなんだ。ただ混ぜるだけじゃだめなんだよ。そこが難しいところでもあるんだけどさ」

ジャッキー・テラソンや盟友のステフォン・ハリス、渡辺貞夫などのグループで活躍し、若手ジャズマンにとって今や問答無用の大名跡である『セロニアス・モンク・コンペティション』のグランプリを09年に獲得した27歳のベーシストは落ち着き払ってそう答える。だから「J・ディラの曲なんかも演奏してるらしいっすね?」と気色ばんだ質問を投げてみても「まあ、色々な曲を演奏するのは僕らにとっては普通のことだからねえ」と肩すかしを食らうだけだ。

84年ワシントン生まれ。母上の勤務先だった下院議員の事務所でコントラバスを発見したベン君は即座にその低周波楽器の虜になった。名門ジュリアード音楽院で英才教育を受け、誰もが認めるトップベーシストになった彼は後年「ベースを弾けばその場にある全ての音に波動を与えることができる」というようなことを語っているが、なるほどそれは、初リーダー作『ステイト・オブ・アート』における彼のベースへのアプローチを明快にあらわす言葉であると言えるかもしれない。

アルバムのオープニングを飾るゴーゴー風の曲から、バンド全体がベースによって呼吸させられているかのように伸び伸びとした世界が幕を明ける。「気持ちの良いサウンドが好きなんだ。そういうサウンドになるように気を配った」そうだが、確かにこの曲に漂う気持ちの良いムードは、アルバム全体のサウンドを決定付けていると言える。

ラップをフィーチャーしたジャズ讃歌《リー・モーガン・ストーリー》や少年時代のヒーローだったと言うマイケル・ジャクソン《リトル・スージー》、スティーヴィー・ワンダー《パート・タイム・ラヴァー》等々、本人曰く「エレクティック」な作品である印象を裏づける曲たちが並ぶが、それは「折衷」というよりもむしろ「調和」とでも呼びたくなるサウンドだ。またそれは、お気に入りだというジェラルド・クレイトンやグレッチェン・パーラトら同世代のミュージシャンがごく自然に体得しているバランス感覚でもあるだろう。

「ジャズは死んだって言う人がいるけど、真実からは程遠いと思うね。ニューヨークの僕の家がある6ブロック以内だけでも素晴らしい若手ミュージシャンがたくさんいるんだよ」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年03月14日 12:14

ソース: intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)

取材・文 intoxicate編集部