及部恭子
NY名門ジャズクラブで活躍中の注目のピアニスト
昨年の11月23日、東京青山のボディ&ソウルで、昼夜2部のイヴェント『ニューヨーク・スペシャル・ライブ・デイ』が開催された。伝説のドラマー、ジミー・コブ率いるカルテットが出演する夜の部に先だって、ニューヨークの精鋭を擁した自身のトリオで昼の部を務めたのが、ピアニストの及部恭子である。
岡山出身の彼女は4歳でピアノを始めたが、「スバルタな先生」との相性が合わず、6歳でやめてしまう。その後しばらくの間、テレビ番組や音楽の授業で気に入った曲を弾いて楽しんでいた彼女がジャズの洗礼を受けたのは14歳の時、母親の友人のレコード店が企画したポール・モチアン・トリオのライヴだったという。その後も同店の企画ライヴで瀬木貴将や中村善郎、橋本一子、日野皓正など、様々なトップ・ミュージシャンの演奏を生で観た。そして、あるライヴの後にピアニストの谷川賢作と《イパネマの娘》を連弾し、谷川の即興を目の当たりにした。「あなたのように自由に弾けるようになりたい」言うと、「それじゃあ、ジャズをやってみたら?」と谷川から勧められ、彼女はさっそく地元のジャズ・ピアニストに習い始めた。
その1年半後に初めて参加したジャム・セッションで、及部はアメリカ人トランペッターが率いるバンドに誘われた。彼女はそのバンドで一緒だった日本人のドラマーからニューヨーク行きを勧められ、24歳の誕生日に初めてニューヨークを訪れたのである。本場でライヴを鑑賞し、ファット・キャットやスモールズといったクラブのジャム・セッションにも飛び込み、「それまでに聴いたことのない音楽を肌で感じた」彼女は、「この音楽を自分の体にしみこませるには、もっとここにいないとだめだ」と思い、その後も頻繁にニューヨークへ通ったという。今ではスモールズのピアノで練習させてもらうほどニューヨークに溶け込んでいる及部に、音楽学校への留学という選択肢はなかった。「私、学校が嫌いなんです(笑)。枠にはめられるのが嫌で…ジャム・セッションやライヴで音楽を体験できるスモールズが、私にとっての学校です」という彼女の言葉も、やや控えめなサウンドの中に自由奔放なものを感じさせるピアノを聴けば納得がいく。今回来日したトリオではすでにライヴ盤『Cookin' At Smalls』を発表しているが、スタジオ盤のレコーディングも計画中とのことで、今後の活動にも大いに注目したい。