インタビュー

山根万理奈 『空な色』



山根万理奈_A



地元・島根で大学生活を送りながら、顔を見せない弾き語りスタイル、つまりはその、熱く、優しく、まっすぐな〈歌のみ〉の力でネット・ユーザーのハートを震わせてきたシンガー、山根万理奈。そんな彼女が、今年1月のセカンド・シングル『STAR e.p.』を機に、その素顔を公開。活動拠点も東京へと移し、続いてリリースされたシングルのタイトル通りに新たな〈スタートライン〉に立った彼女は、ここにファースト・オリジナル・アルバム『空な色』を届けた。

「こんなに早くアルバムを作れるとは思ってなかったですけど、良いタイミングで自分の顔も出せたし、卒業という節目もあったり、また新しいことをやっていくにあたっていままでの成果をひとつの形にできたなあって。シンガーとしての成長だったりっていうところも自分自身で感じ取ることができる作品になりました」。

自身が設けたYouTubeのチャンネルではカヴァー曲を中心に演奏、ライヴでは自作の楽曲も披露している彼女だが、『空な色』はデビュー時からの好パートナーであるソングライター・チームのHanasal、同世代シンガー・ソングライターの黒沼英之、ライヴ・サポートも務める石垣隆太らといった作家陣による楽曲で構成。そのなかには、シンガーを志すうえでのターニング・ポイントとなった楽曲も。それが、タイトル曲の“空な色”。

「今の事務所から声がかかって……でも、まだ大学生だし、親もそんなことになるとは思ってないだろうし、って悩んでいた時期にいただいた曲なんです。それで、とりあえず曲を書いたHanasalと会ってみないかっていうことで、一度東京に来て。それが2010年の夏。Hanasalと初めて会った次の日にこの曲のレコーディングをしたんですけど、そのときに渡された歌詞が、以前いただいていた歌詞とは違うものになっていて。それって、Hanasalが私の話──悩みだとか気持ちの葛藤だとかを聞いて書き換えたものだったんですね。周囲の反対とかもあるだろうし、自分も本当に仕事として音楽がやりたいかどうかわからない、っていうようなことをそのときに私は話してたと思うんですけど、Hanasalには〈やると決まっていた〉本心を見透かされてて。そこを感じ取ってもらえたことがすごくうれしかったし、感動したし、それでこの曲を歌いたいって思って。〈シンガー・山根万理奈〉としてやっていきたいっていう強い気持ちが生まれたのがこの曲なんです」。

ほかにも、「経験はないですけど(キッパリ!……笑)」という不倫がテーマでありながら、女性の純粋な恋心を可憐に映し出した“メリーゴーラウンド”、いつになく醒めたヴォーカルが穏やかなメロディーの上をたゆたう“blue”、高校時代からの友人兼音楽仲間が書いた美しき青春回想“蒼き日々”、夏の始まりに煽られた少女のラヴストーリーを清々しいサウンドに乗せた“あなたが好きで”など。彼女の歌、歌声は、新たな楽曲たちとの出会いによって、喜怒哀楽入り交じった〈人間くささ〉を滲ませながら、色彩の豊かさを見せていく。ソングライターというよりも〈歌うこと〉に専念していきたいという気持ちで歩んできた彼女の〈なう〉を示す作品として、これ以上ない第1ピリオドだろう。

「趣味で歌を始めたっていうところからデビューを掴むまでになって……それだけにどうやったらプロとして認識してもらえるんだろうっていうのはすごくあったし、その差って何だろう?って悩みながらのところはありました。〈歌が好き〉っていう気持ちはずっと変わらず信じていくけど、そこにプラス何かを付けていかないと、飽きずにずっと聴いてもらうことは難しいでしょうし。それだけに、私の第1ピリオドになるアルバムは、その後の土台としてちゃんと成り立つものにならないといけないなって思ったし、そのためにはここまでの山根万理奈をしっかりと提示しておかないといけないなって。結果、それを見せられる曲と出会えたし……本当に素敵な曲といっぱい出会えてうれしい(スマイル!)」。



PROFILE/山根万理奈


89年生まれ、島根は松江出身のシンガー・ソングライター。中学生の時にギターを始め、独学でソングライティングも開始する。高校時代の友人とデュオを結成して活動するも解散。進学を経て、2009年よりYouTubeで演奏をアップしはじめ、ネット上で話題になっていく。2011年6月に山音まー名義のカヴァー集『人のオンガクを笑うな!』でデビュー。翌月にシングル“ジャンヌダルク”でメジャー・デビューを果たし、11月にカヴァー・アルバム『ざっくばらん』を発表。今年に入って、1月の『STAR e.p.』発表と同時に素顔を公開し、3月にはシングル“スタートライン”をリリース。大学卒業と上京を経て、ファースト・オリジナル・アルバム『空な色』(ワーナー)を4月11日にリリースする。

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掲載: 2012年04月11日 00:00

更新: 2012年04月11日 00:00

ソース: bounce 342号(2012年3月25日発行)

インタヴュー・文/久保田泰平