インタビュー

アンリ・バルダ

ピアニストが惚れ込むピアニスト=バルダの新譜が登場

フランス人ピアニスト、アンリ・バルダの名前を知っている人は幸福である。そして彼の演奏を聴いた事がある人は、それを誇って良い。今回彼のライヴ演奏を収めたアルバムがリリースされることになった。「録音をするという決断をするのに一年かかりました。そして録音を出す決断に2年かかりました。しかし、その後の遅れに関しては、私の責任じゃないですよ(笑)」。

バルダの録音はとても少ない。それゆえ〈幻〉のピアニスト扱いされる時期も。しかし、その演奏の素晴らしさ、ピアノの音色の素晴らしさを一度聴くと、忘れられない。今回のライヴ録音には、彼のその魅力を捉えた奇跡的な一枚となるだろう。「本来、音楽の神様が降りてきて、自分が確信を持って演奏出来る瞬間を待っているべきなのです。それがいつ来るかどうかは分からない。だ

から演奏会を録音するために、その準備をするということはとても大変なことだったんですよ」。

もしグールドのように常に自分が自由に使えるスタジオがあれば、自分の集中力を高めて、しかるべき時に録音するということが可能かもしれない。「しかし、そんな素晴らしい条件を持ったピアニストはせいぜいグールドとホロヴィッツぐらいでしょう。すべてのピアニストがそういう条件を持つことは出来ない」。

今回のライヴ録音に関しても、自分の録音を聴き直すということがなかなか出来なかった、という。「録音から数ヶ月たって、自分がその時にどういう演奏をしたかったのかという記憶が薄らいで来ます。その時に初めて客観的に聴く事が出来るようになる。ああ、こういうことがしたかったのか、その結果、ここはどうだった、あそこは、と考えることが出来る。予想外に良かった部分もあったとか、あるいは良く出来たと思ったのに、そうでもないとか。これは料理と同じようなものかもしれませんね。レシピをちゃんと準備して、それが計画通りに進んだので、自分としては良い出来だと思っていた。しかし、実際にはそうでもない。むしろ自分が上手く行かなかったと思う部分に発見があります」。

こう書くと、気難しい人のように思うだろが、そうではない。むしろ素晴らしい芸術家気質の持ち主で、質問には常に誠実に答えてくれる、 早口だけれど(通訳の方に感謝)。彼の新しい録音がリリースされるのは、おそらく世界的な話題となるだろう。

LIVE INFORMATION
『アンリ・バルダ 2012年来日公演』
曲目:ラヴェル:クープランの墓、高雅にして感傷的なワルツ ほか
7/4(水)宗次ホール
7/7(土)海老名市文化会館
7/8(日)横浜市港南区民文化センター
7/12(木)浜離宮朝日ホール
http://www.concert.co.jp/

カテゴリ : インタヴュー インタヴュー

掲載: 2012年04月25日 12:00

ソース: 取材・文 片桐卓也

取材・文 片桐卓也