インタビュー

大島保克

民謡の研究を経て作られた、待望の新作

大島保克。1969年生まれ。いまの沖縄の音楽を背負う世代の旗手が、10年ぶりのオリジナル曲中心のアルバム『島渡る〜Across the Islands〜』を発表した。ポップス的な代表曲の《イラヨイ月夜浜》や、山口洋のアンビエントなギターが鳴り響く《流星》から、民謡風の《マンタラ祝》や《東方節》、両者の混在する《来夏世》(鳩間加奈子とのデュエット)や《波照間》まで、多彩な曲が収められた、艶やかな歌声が深くしみるアルバムだ。

「デビューしたころは、修行らしいことをしてなかったので、20代後半から30代にかけては三線一本で古い歌を勉強して過ごしました。そしてようやく三線でもギターでも、同じテンション、同じスイッチでうたえるようになってきた。それで今回はあえていろんな曲を入れたんです」

彼は八重山諸島の石垣島の出身だが、教えを乞うたのは登川誠仁、知名定男、大城美佐子ら、主に沖縄本島の民謡の革新者たちだった。民謡の背景についての知識や演奏技術から独特のチューニングまで、学んだことははかり知れない。

「入口にたどりついて、リ・スタートという感じですね。沖縄の音楽は時代とともに変わってきて、ぼくが小さいころ聞いていたものとはかけ離れたものになっている。その根っこがどういうものか、コアな部分を勉強し直そうと思ったんです」

それは歴史をさかのぼると同時に、未来への道を探る旅でもあった。今回のアルバムが感じさせる抒情性や新しい懐かしさは、ほんらいの古典が持っている感覚でもある。彼は「歌に意味を求めすぎるのは好きではない」とも語っていた。たとえば石垣島の津波にふれた《与那岡》や、六甲・淡路の風景を描いた《島渡る》は、聴き手に震災を連想させずにおかないが、作っているときはそれを意識すらしていなかったという。歌がどこから生まれて、どこに運ばれていくのかを、彼はよく知っているのだ。

「島崎藤村の書いた《椰子の実》がいちばん好きな詞です。漢字と平仮名の視覚的な組み合わせからして美しい。井上陽水さんみたいに、響きで詞を書くのも好きですね。古い島唄の歌詞は、あまり意味がないんですよ。《月ぬ美しゃ》の歌詞なんか、月が美しいのは十三夜、娘が美しいのは17歳。東から上ってくる大きな月が沖縄と八重山を照らしている……と、それだけですからね(笑)。それだけで光景が広がる。それが理想です。実はそれが難しいんですけどね」

LIVE INFORMATION
『CD発売記念ライヴ』
5/13(日)東京・吉祥寺 スターパインズカフェ
5/25(金)大阪・梅田AKASO
5/26(土)名古屋・TOKUZO
7/7(土)那覇・桜坂劇場
7/8(日)石垣・シティージャック
9/21(金)東京・中野ZEROホール
http://www.oshimayasukatsu.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年05月01日 19:53

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文 北中正和

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