三谷幸喜
〈映画監督〉三谷幸喜のワザとこだわりが詰まった最新作がDVD化
演劇と映画、どちらかひとつでも大変なのに、その両方を極めようとする欲張りな男、三谷幸喜。最新作『ステキな金縛り』は、三谷が演劇と映画で培ってきた経験や技術をこれまで以上に巧みに、そして幸福な形で融合させて大ヒットを記録した。今回、三谷が挑んだのは法廷劇だが、三谷にとって法廷劇は、セリフの占める比重が大きなところが魅力だったとか。
「会話の面白さって、嘘をつくことだと思うんです。思ってることと言ってることが違うという前提で会話をすると、そこにドラマが生まれて見るほうも惹き込まれるんですよね。その点、法廷では誰かが嘘を言っている可能性が高いわけだから、法廷劇というのは会話劇の最も凝縮されたものだと思うんですよ」
もちろん三谷作品のこと、ただの法廷劇で終わるわけはない。洋館でおこった殺人事件の容疑者を弁護することになった女弁護士エミ(深津絵里)は、名弁護士として尊敬を集めた亡き父とは反対にいつも失敗ばかり。今回が最後のチャンスと張り切って事件を調査する。そして、被告人のアリバイを証明する証人として探し出したのは、なんと落ち武者の幽霊、六兵衛(西田敏行)。常識はずれの証人に猛反発するベテラン検察官の小佐野(中井貴一)と、エミ&六兵衛の凸凹コンビは、事件の真相をめぐって丁々発止の法廷バトルを繰り広げていく。今回も個性溢れるキャストが揃うなか、主役を演じた深津絵里のコメディエンヌとしての魅力が光っている。女性が主人公というのは三谷作品には珍しいが、それだけ三谷は女優としての深津に信頼を置いているようだ。
「深津さんは台本の読み込みがすごく的確で、現場では僕がこうしてほしいということを瞬時に理解して、それを何倍にもして返してくれるんです。僕が思うコメディエンヌの条件として、とにかく動きがきれいじゃなきゃいけない、というのがあるんですけど、深津さんはよく動くし、動きにキレがあるんですよね。だから今回はそれを活かしたいというのもありました。深津さんとは前の仕事で初めて仕事させて頂いたんですけど、彼女と出会っていなかったらこの映画の主人公は男になっていたと思います。それくらい今回は、深津さんをいかに魅力的に描くことができるかというところに心血を注ぎました。それは撮り方だけじゃないんですよね、ヘアスタイルから衣装、靴下の位置に至るまでこだわったし、特に髪型なんかはすごく時間をかけました」
そんなこだわりのキャストやスタッフに支えられて、三谷幸喜の映画的演出も光っている。会話劇は三谷にとって得意分野だが、それを映画として面白く見せるテクニックが必要だ。たとえばカット割。法廷という限定された空間のなかで、どうカットを割って見せていくか、それは映画の原点に立返る重要なテーマともいえる。
「これまでずっと、自分が映画を撮るときの一番の武器は1シーン1カットの長回しだと思っていたんです。それは舞台をやっているというのも大きいんですけど。でも、カットを割るというのは映画の醍醐味でもあって、それをこれまで放棄してきたようなところもあったんです。だから自分が前に進むためにも、今回はカット割について考えるという題材ということで、法廷劇を選んだところもありますね。その結果学んだのは、最も良いカット割というのは、観ている人がカットを割ったことに気づかないということ。そして、物語が面白ければ、観る側はカット割なんて気にせずに映画に入り込むことができる。だから、やっぱり、まずは台本なんだなって。なんだか振り出しに戻った気がしました」
本作以降、中井貴一と鈴木京香主演の1シーン1カットの長回し2時間ドラマ『short cut』や、『ステキな金縛り』のキャストが再集結して〈隠し撮りカメラ〉で撮ったTVドラマ『ステキな隠し撮り』など、次々と新しい挑戦に挑み続ける三谷は映画監督としての新しいステージへと進んだようだ。最後に『ステキな金縛り』がDVD化されるにあたってたっぷり収録された特典のなかから、監督のオススメを教えてもらった。
「〈三谷幸喜生誕50周年大感謝映画祭〉というのをやったんですけど、その舞台挨拶がまるまる入ってるんですよね。例えばアカデミー賞とか、ああいうショーアップされた授賞式を見ると、俳優さん達が出て来てスピーチするだけなんだけど、それで十分エンタテイメントになるんですよ。それを自分なりにやってみたいと思って。いろんな俳優さん達が登場して僕に対する想いを語るだけのコーナーなんですけど、『ステキな金縛り』と関係ない人も出て来たりもして(笑)。皆さん一流の俳優さんばかりなので豪華だし、これまで観たことない映像になっていて、すごく面白いですよ」