インタビュー

カロリン・ヴィットマン

来日を機にブレイク必至。ECMの秘蔵ヴァイオリニスト

4月2日にオール無伴奏プログラムのリサイタル(武蔵野市)で日本デビューを果たし、特に現代イタリアのサルヴァトーレ・シャリーノの超絶技巧作品《ヴァイオリンのための6つのカプリチオ》の圧倒的な演奏で聴衆を魅了した。

「私が生まれた年に29歳の彼によって書かれた作品です。シャリーノさんとは親しいの。バルトーク以降で、ヴァイオリンのために新しい言語を生み出した偉大な作曲家だと思う」

日本ではマンフレート・アイヒャーの美意識溢れる孤高のレーベル、ECM New Seriesへの録音で知られる。最新作はシューベルト。

「最初が大好きなシューマンのソナタ集で、それから現代ものを2つ。今回のシューベルトは大地に足をしっかりつけながら、同時に頭が天国に届いているような作曲家。〈美しさ〉と〈痛み〉が同じ強さで同居していて、真に理解するためには経験を要する。でも技術的にも今の私にとって機は熟したと感じたから、喜んで依頼を受けたの」

《ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ短調》では彼女の指摘するアンビバレンスさを体現。

「歓びに溢れていたかと思うと次の瞬間に全てが無に帰するような展開の連続で技術的にも難解。まるで、描けない物を絵画にしたような作品だと思う。初演が散々だったというのも肯けるわ。時代を超越しているもの。でも、本当に天才なのはこの曲から最初にレコーディングしようって提案して譲らなかったマンフレート。私はあり得ないと思ったのだけれど(笑)、彼は正しかった」

ピアニストにはザルツブルク音楽祭で共演経験のある同じドイツ生まれのロンクィッヒを起用。
「彼は頭脳明晰で驚く程豊富な知識を持っていながら、演奏はシンプルで無駄がない。それだけに研ぎ澄まされていて、説得力があるの。ローマまでリサイタルを聴きに行って、その夜にはもう彼を捕まえてワインを飲みながら一緒に選曲の話をしていたわね(笑)。《ソナタ イ長調》は彼の提案だった。《ロンド ロ短調》は私のチョイスで、可愛らしいと誤解されているけど実はシリアスな作品だってことを示したくて選んだの。既に膨大な録音がリリースされているわけだから、過去にはない視点、何か固定観念を打ち破るようなアルバムにしたいと思った。そのコンセプトで次回は可能ならメンデルスゾーンに挑戦したいわ」

今後も初演やシャリーノの協奏曲の録音などが目白押し。来年のラトルとの共演も楽しみだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年05月29日 21:00

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文 東端哲也