インタビュー

渡辺克也

フルトヴェングラー的な情念をオーボエに吹き込む名手

ベルリン在住のオーボエ奏者・渡辺克也(通称ナベカツ。世界のナベサダみたいでなかなかいいネーミングかも!)は、いまや日本が世界に誇る名手。ベルリン・ドイツ・オペラ首席奏者として鳴らした超絶技巧に磨きをかける一方、未知のオーボエ作品の発掘への執念が素晴らしい。

今回の新譜は、ドイツの名門プロフィル/ヘンスラーへの3枚目の録音。幅広い音楽ファンを瞠目させる未知の名曲にも当然光が当てられている。

新譜のタイトル曲でもある《ポエム》の作曲者、マリーナ・ドラニシニコヴァはすでに物故者で、20世紀の作曲家としては全く知られていない存在。しかしこの曲は、彼女が恋していたレニングラード・フィルのオーボエ奏者のために書かれたという、暗いロマンにあふれた名品である。

「この恋は悲しい結末を迎えたということが楽譜には書かれていました。ラフマニノフとかスクリャービンみたいにドラマティックですよね。こんないい曲なかなかないですよ」

1940年ノルウェー生まれのトリグヴェ・マドセンのオーボエ・ソナタも美しい。プロコフィエフの新発見作品だと言われても信じてしまうほど。妖しいオーボエの音色が存分に生かされている。

「この曲には惚れ込んでいます。録音前にはマドセン本人に電話をしました。3日間のうちの一番最初のセッションで録音して、簡単に編集したものをメールで送るから、直すべきところがあったら言ってくれれば最終日に直すと。すごく喜んでくれた。結局直しはなかったけれど『私の曲に生命を吹き込んでくれてありがとう。私が想定していた以上の演奏だった』と連絡がきました」

彼と話していると、必ずと言っていいほどフルトヴェングラーの話題が出る。心酔者なのだ。これまでのCDはほとんどベルリン・イエス・キリスト教会で行われていることからも、それはうかがわれる。彼のオーボエの演奏にも、激烈な表現がしばしばみられるが、解釈のルーツは明らかにフルトヴェングラーにある。

「作曲家が、自分の書いた曲の一番美しい姿を知っているかというと、僕は違うと思う。作曲家が作曲したよりも、質のいい演奏というのは絶対にある。それをしていくのが僕らの役目です。〈正確に〉とか〈忠実に〉とかいうあまりに、それ以上の余計なことをしない最近の傾向というのは、ちょっと行き過ぎているんじゃないでしょうか」

LIVE INFORMATION
『渡辺克也 CD発売記念 オーボエ・リサイタル~Poem~』
7/28(土)14:00開演
会場:東京文化会館 小ホール
http://www.concert.co.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月10日 11:40

ソース: intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)

取材・文/林田直樹(音楽ジャーナリスト)