トーマス・ヘンゲルブロック
NDRの新時代を築くヘンゲルブロックの挑戦
トーマス・ヘンゲルブロックの名が、いまドイツを中心にヨーロッパのオーケストラ・ファンの間で大きな話題となり、コンサートが行われるたびに旋風を巻き起こしている。彼はヴァイオリニストとしてスタートし、アーノンクールのもとでも演奏していたが、やがて指揮者に転向。自らの音楽の理想を求めてバルタザール=ノイマン合唱団とアンサンブルを創設、ピリオド楽器の奏法も熟知し、現在ではモダン楽器のオーケストラの指揮も行い、オペラの指揮も多数行っている。そして2011/12年シーズン、北ドイツ放送交響楽団(NDR)の首席指揮者に就任し、そのコンビで5月に初来日してみずみずしく躍動感あふれる演奏を披露した。新譜はメンデルスゾーンの交響曲第1番、同八重奏曲作品20より「スケルツォ」、シューマンの交響曲第4番という凝ったプログラムだ。
「NDRは長い伝統を備えたオーケストラ。ベートーヴェン、ブラームス、マーラー、ブルックナーを得意としています。私はそこに新たな風を吹き込み、伝統の上に現代性を盛り込みたいと思っています。新譜は私が大好きなメンデルスゾーンを取り上げました。あまり演奏されない作品ですが、若きメンデルスゾーンの天才性が現れている。このオーケストラとの船出にふさわしいと考えたからです。ナチュラル・ホルンやトランペット、ガット弦を使用しています。シューマンもNDRの鍛え抜かれた響きに合うと思いました。次の録音はドヴォルザークを考えています」
ヘンゲルブロックは、演奏にもいえることだが、インタヴューでも明快で率直で自然な語り口を特徴とする。オーケストラとも常に正直に、何でも話し合い、互いの意思を尊重しあうという。
「NDRとは最初の共演から息が合うと感じました。いい化学反応を生み出すことができると判断したわけです。いまでは互いに音楽を心から楽しんで演奏することができる。しばらくはいろんな作品を演奏し、その後このオーケストラの王道のレパートリーに取り組みたいと考えています。すでにコンサートではJ・S・バッハ、M・ハイドン、パーセル、ラモーから現代作品まで演奏しています。幅広いでしょう。もっと増えますよ」
ヘンゲルブロックはヨットでセーリングするのが趣味だそうだが、「時間がなくてね」と嘆く。今後は客演を控えNDRとバルタザール=ノイマンにしぼり、みんなが驚くような画期的な音楽を生み出していくという。旋風は今後も吹き荒れそうだ。