インタビュー

芳垣安洋(オルケスタ・リブレ)

まあ、とりあえず歌おうぜ!

やっぱり、ただ者じゃない。ヴィンセント・アトミクスほか複数の自己バンドやROVOなど、様々な活動に手を染めている芳垣安洋(ドラム)の新作2種を聞いて、そう思った。彼が率いるそのグループは、オルケスタ・リブレという。

「カヴァーをやる、というアイデアからスタートしています。1920年代後半から70年代までの曲が素材。そして、言葉がある曲を言葉がない状態でやるとどうなるか。あるいは、英語の歌を日本語でやるとどうなるか、というのをやってみたかった」

最初にライヴを披露したのが、昨年の6月。芳垣は青木タイセイ(トロンボーン)や鈴木正人(ベース)ら、普段お手合わせする機会の多い敏腕奏者たち10人に声をかけた。

「震災後の沈滞していた気持ちを切り替えたいというのがありました。そこで、古き佳き時代のもの、僕が子供のころにワクワクした曲を僕たちなりに届けたらみんなも元気になるんじゃないか。そういう純粋な気持ちから始まりました」

今回形となったのは、ヴォーカル付き曲からなる2枚組『うたのかたち』、そしてインスト盤の『好きにならずにいられない』。前者は柳原陽一郎(元たま)とおおはた雄一が、1枚づつフィーチャーされる。2人は共に外国曲の日本語訳詞も手がけるが、それが絶妙。言葉がすうっと入って来て、聴く手の中で鮮やかに覚醒する。

「どうせやるなら、自分も、聴く人も言葉が分るものをやったほうがいいと思いました。そこで、日本語で歌っていていいなと思える人で、詩人として優れている、この2人に声をかけました」

そして、ヴォーカル/言葉があるにせよ、ないにせよ、やはり5人の管楽器奏者を擁する集団演奏は冴えている。一言でいうなら、イマジネイティヴ。それは、まるで“夢のブラス・バンド”と言いたくなるものでもある。

「今回は変わったレコーディングのやり方をしました。ちょっと大きめの部屋に全員で入って、ヘッドフォンもせずに“せ─の”で演奏し、録ったんです。間違えたら、やり直し。歌も同じ部屋に入ってやりました。だから、録音もミックスも大変でしたが、それゆえに緊張感はあるのにゆったりしたものが録れたと思う」

発想もやりかたも、商品パッケージも自由自在。オルケスタ・リブレはまさに、芳垣安洋が音楽家としての自由をまっすぐに求めたバンドなのだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年09月07日 15:11

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

取材・文 佐藤英輔