インタビュー

ひいらぎ 『ドーナツの穴』



リスナーと心を繋いできた真っ直ぐな歌の魅力に加え、カラフルな音遊びを聴かせながらそのキャラクターを光らせる2枚目のアルバム!



ひいらぎ_A



もしかしたら2枚目のアルバムにこそ、そのアーティストの本領が発揮されるのかも知れない。偏りなくすべてを出さなくては、というデビュー作ならではの力みやプレッシャーから解き放たれてアルバムを作る──そんなくつろぎと自由さから見えてくる姿が無防備に表れているような。だからこそ1枚目で好感触を得たアーティストの2枚目は楽しみだったりする。ひいらぎのニュー・アルバムも、そう。1枚目の『地平線と秋の空』で、真っ正面から言葉とメロディーに向かい合って歌っていた2人が、次は何をどう歌うのか、それがとても楽しみだった。

「1枚目は心のモヤモヤした部分を書いた、ひいらぎの芯になる部分が詰まった名刺代わりのようなアルバムだったんですけど、今回はライヴでのひいらぎに通じる、明るい部分が表れたアルバムというか。ライヴは楽しいのに、CDになるといきなり暗いみたいな(笑)、まあそれもひいらぎなんですけど、ワイワイ楽しいのもひいらぎなので。それもあって、ポップでキャッチーな面を出したいと思っていたんですね。だからこの2枚は裏と表、中身と外見みたいな関係性のアルバムっていう気がします」(恵梨香、コーラス/ギター)。

真面目に、正直に生きていこうとすると、なぜだか世の中は生きにくい──ひいらぎの歌はいずれの作品でもそういった気持ちが出発点になっている。それを丸裸で歌おうとしたのが1枚目だとしたら、今回の『ドーナツの穴』は意外性のある服も着こなしながらスタイリングに凝った、といった趣。聴いた印象は楽しくてポップでカラフルなものへと変化した。

「歌のテーマ自体はそんなに変わっているわけじゃないと思うんです。やっぱり暗かったり重たかったり、そういうことを歌ってる曲も多いし。その芯の部分は変えずに、自分たちのなかにある楽しい部分を表したというか」(千晶、ヴォーカル/ギター)。

というわけで、レゲエのリズムを採り入れた“晴れた日曜日”、鼓笛隊をイメージした“タラッタラッタ”、スキップ気分を誘う“エキサイティングマンデー”など、ライヴではお馴染みになっている〈陽気なひいらぎ〉が、数多く姿を見せることになった。

「“エキサイティングマンデー”のタイトルは、電車のアナウンスを空耳したのがきっかけ(笑)。〈マンデーくらいはエキサイティングしたいよね〉ってとこから、初めてタイトルありきで書いた曲。“タラッタラッタ”は叩きすぎて割ってしまうから石橋は絶対渡れない自分を(笑)、ちょっと客観的に見てみた曲だったりします」(恵梨香)。

「いままでにない感じでリズムから作ったのが“晴れた日曜日”なんですけど。友達とのことを書いたつもりが、出来上がったら〈デート?〉みたいな曲になってました(笑)」(千晶)。

さらに、キーボードの浮遊感ある音色と恵梨香の柔らかいヴォーカルが印象的な“太陽と陰”、「いつか書きたいと思っていた」(千晶)という両親への思いを綴った曲“あなたがくれたもの”、情景設定や感情の切り口が新鮮な“電車”……と、〈こんな一面も〉がさまざまな形で登場。かと思えば、ひいらぎのひいらぎたる所以のような“自分ルール”、恋愛越しに自分の弱さを描いた“九月”と、これまでのひいらぎらしさを色濃く映した曲もあり。良い具合に〈静〉をアクセントにし、〈動〉の部分をフィーチャーした一枚になっている。

「ドーナツは穴があるからドーナツで、ということはその穴は空洞ではなく〈存在〉なんじゃないか?──っていう話をするのがすごく好きで(笑)。なんかその話が、このアルバムにピッタリだなと思ったんですよね」(恵梨香)。

つまりは穴=芯。ドーナツは穴が空いていてこそドーナツ、ひいらぎもまた〈穴〉があってこそ、何を着こなしてもひいらぎとなる。力みのなさがそのタイトルにも表れた『ドーナツの穴』。またひとつ、音楽の楽しみと喜びと遊び心に満ちた〈2枚目〉に出会えた。



▼ひいらぎの2010年作『地平線と秋の空』(ソニー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年10月23日 21:30

更新: 2012年10月23日 21:30

ソース: bounce 348号(2012年9月25日発行)

インタヴュー・文/前原雅子

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