桑山哲也
桑山哲也&ダニエル・コラン
サン=ジェルマン=デ=プレの、人生を謳歌する音楽
「実際にパリに行くまでは怖かったです。ホントに来たのかよと思われたらどうしようと」
日本を代表するアコーディオン奏者をそれほどまでにナーバスにさせたのにはワケがある。『サン=ジェルマン=デ=プレの出逢い』で共演することになったダニエル・コランはまさに桑山の憧れの存在。おまけに、彼がはじめてパりに行った際にコンサートを観て感激したジャン・コルティとラウル・バルボーザという名アコーディオン奏者も録音メンバーに名を連ねる。脇を固めるのは、ドミニク・クラヴィックやクレール・エルジエールら、おなじみのコラン組にして、仏ミュゼット界を代表するミュージシャン達。しかし、桑山のそんな心配は杞憂に終わり、パリ左岸でのレコーディングが開始されることとなった。
「レコーディング中にノイズが出たので演奏を止めたら怒られました。今すごく良かったのになんで止めるんだ? って。だってノイズが…って言ったら、俺たちはフィーリングがよければそれでいいんだ、神経質になるなと。休憩して食事に行ってもみんなシャンパンやワインをがぶがぶ飲んで、眠くなったからちょっと寝ようって(笑)。日本では有り得ないですよね。しまいには、さっき寝たからこんないい演奏ができたんだって(笑)。すごくポジティヴで、人生を謳歌してる」
そうして録音されたのは、ミュゼットの名曲を中心とした14曲。聴き所はもちろん、4人のアコーディオン奏者の演奏だろう。
「コランさんとは40年来の付き合いのエンジニアさんも、コランさんの奥さんも僕のマネージャーも、コランさんと僕のパートを勘違いするくらい、演奏も音色も似てしまった(笑)。ラウルさんと一緒にやった曲では、僕はあえてラウルさんのチャマメのリズムには乗らないで、タンゴのリズムをキープしているんです。その時のアイデアの応酬はすごくおもしろかったですね」
今回初めて桑山の演奏を聴いたラウル・バルボーザとジャン・コルティそれぞれが桑山とのデュオ演奏を提案。予定になかった2曲が新たに加わることになった。特にコルティが演奏中に快哉の雄叫びをあげる《スウィング・ワルツ》は本作のハイライトとも言える内容だ。
「楽譜は初見だったし、その10分後には録音開始ですよ(笑)。よく弾いたなと思います。日本に帰ってきてやってみたけど、弾けなかった(笑)。コラン魂で乗り切ったんでしょうね」