OMSB 『Mr. "All Bad" Jordan』
時はいよいよ満ちた——〈One Man Slang Band〉が怒濤の勢いでガシガシと打ち鳴らす待望のソロ・アルバム!!!!!
こういうタイミングというタイミングになったとはいえ、それはあくまでもただのタイミングだ。昨年のアルバムによって台風の目として脚光を浴びたSIMI LABだが、このたび届いたOMSBのソロ・アルバム『Mr. "All Bad" Jordan』は、ある種のピークに思えた昨年の蠢きがまさに〈Page 1〉に過ぎなかったことを示唆している。詳細なインタヴューはbounceのウェブ限定コンテンツを参照してもらうとして……とにかく、凄まじい勢いでバキバキと繰り出されるビートとラップの密度の濃さがハンパじゃない。自身の名をもじったオープニングの“One Man Slang Band”から、何かをへし折るようなグルーヴが弾む“No Big Deal(F Zero)”、不穏なベースの軋みが熱を帯びたラップに絡む“HULK”など、一聴してストロングな側面にまずは圧倒されるはずだ。
「トラックに関してはこうしたいっていうルールがあって。bounceの取材だから言うんじゃないですけど、ホントに今年は自分のなかで〈バウンス〉だと思ったものだけ出したいと思ってたんです。そうなってない予選落ちの曲はSoundCloudに流して。単純にクォンタイズにはめて曲を作るにしても、それがバウンスになってれば良し、って決めてました」。
そうやって彼が日々ゴツゴツと刻み続けてきたビートの特異な存在感は、フリー音源として山ほど放流される一方、いざ音源化されればSIMI LABらしさを増幅するものとして高い評価に繋がってきたわけだが、本人としては、どちらかと言えば今回はラッパーとしての意識が強かったと語る。
「〈俺はビートメイカーだから〉って言ってインスト・アルバムとか、自分がラップしない客演メインの作品とか、そういうのは自分で何か言い逃れしてる感じがして、今回そうするのは嫌だったんです。OMSBのアルバムはラップでガツンとやってやろうとは思ってました」。
その発言を裏付けるのは、皮肉も交えて当世のラッパーを語るJUMAとの“Rapper Ain't Cool”でもあるし、アルバムの中盤以降に現れてくるパーソナルな色合いの濃い楽曲群でもあるだろう。自身のルーツや〈地元〉について率直に語る“Hoodless”は悩み深い表情も覗かせたその典型だ。また、「ここに入ってるビートやラップの生まれた場所だし、愛着はある」という現在の住まいについて説明する“Maison Naruse”もギリギリのふてぶてしいユーモアが興味深い。
「アルバムの全部じゃないんですけど、曲の構成として繋がるところがあるので、そこを聴いてほしいですね。自己満足なんですけど、J・ディラの『Donuts』みたいにケツがアタマに繋がるようなところも少し意識したし、2周目を聴いてるとわかるような部分があって、どの曲も最初に聴こえた感じとは違うんじゃないかって思ってます。あと、できればCDで聴いてほしいです」。
先述のJUMAに加え、ライヴ仕立ての“Hmm...”にPUNPEEも伴って登場するUSOWA、“Fuck That Fake Policia”にて憎々しい存在感を誇示するDyyPRIDE、“Perfect Vision”での幻想的な歌唱が耳残りするMARIA、さらにDOMU YORKらSIMI LAB構成員の参加はもちろん、DIRTY-Dこと田我流らのゲストも要所に参加。なかにはE-40の愛息たるイシューという驚きの名前もある。それでも主役の意図した通り、最後には本人のストレートな語り口がしっかり残る内容じゃないだろうか。
「作り方で言ったらムチャクチャなんですけど、奇を衒おうとは思ってないんで。変なことしたくても、なりきらない感じというか。凄い普通だと思うんですよね」。
本人の言う〈普通〉の凄まじさが普通なのかどうかは各々に聴いて判断してもらいたいところだ。なお、こちらも待望されているSIMI LABの次作ももう進行しているそうで、OMSBとZAIに続く誰かのソロ展開もその間には明かされることだろう。わかってはいたことだが、この染みはそう簡単に落ちるもんじゃないのだ。
▼関連盤を紹介。
左から、SIMI LABの2011年作『Page 1: ANATOMY OF INSANE』、DyyPRIDEの2011年作『In The Dyyp Shadow』(共にSUMMIT)、田我流の2012年作『B級映画のように2』(Mary Joy)
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