インタビュー

キリンジ 『SUPER VIEW』



堀込泰行・脱退!——誰もが想像しえなかったニュースも秋風と共に吹き抜けていくなか、キリンジのニュー・アルバム『SUPER VIEW』が届けられた。タイトル通り、風光明媚なポップソング集ではあるけれど……!



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セルフ・カヴァー+提供曲集となった昨年のアルバム『SONGBOOK』を挿み、キリンジが2年2か月ぶりにオリジナル・アルバム『SUPER VIEW』を届けてくれた。安心感のなかにも冒険心をふんだんに盛り込みながら滋味深く人懐っこいポップスをクリエイトしてきた彼らだが、今回のアルバムもまた……いやしかし、何かが匂う。大切な人への気持ちが込められた“涙にあきたら”、原発事故がテーマに敷かれた“祈れ呪うな”といった先行配信曲の印象、さらには今回のニュースに揺さぶられているのかも知れないけれど、アルバムを聴きながら広がっていく明媚な風景には、〈やさしさ〉〈やわらかさ〉といったニュアンスもいつも以上に感じられて……。



目の前にある〈SUPER VIEW〉なもの

──〈やさしい〉〈やわらかい〉という感想についてどう思われます?

堀込高樹「あまり打ち込み然とした曲がないことだとか、ギターがアンサンブルの中心になってる曲が多いというのもあるんじゃないですかね。いままではわりとデッドな音作り、あまりリヴァーブをかけないような音作りが好みだったんですけど、前作の『BUOYANCY』あたりからリヴァーブとかテープエコーをバンッと効かせるのが楽しくなってきて(笑)」

堀込泰行「そうだね。デッドな音像に飽きたっていうのはあると思います。散々やったなあっていう感じがしてて」

高樹「そういうエーテル感……とまではいかないけど、なんかふわっとした感じがそういう印象を与えるのかなって思うんですよ」

──制作前のモードはどんな感じで?

泰行「どういう感じだったっけ?……(笑)」

高樹「なんか、60年代の音楽とかわりと聴き返すことが多くて。ミレニウムとか、ああいうソフト・サイケみたいなものだとか、最近のものでもフリート・フォクシーズとか60年代っぽいバンド……そういうものをよく聴いてましたね。なんか、70年代っぽいことは結構たくさんやってきたから、そういうことをやりたいっていう気分ではなかったんですよね……だから、そういう60年代傾向の曲を集めたかなって。まあ、あからさまに60年代っぽいわけではないですけど(笑)」

──アルバムは1曲目からラスト・ナンバーのような壮大な曲で始まります。

高樹「“TREKKING SONG”みたいな派手めの曲が普通は1曲目なんでしょうけど、『BUOYANCY』もそういう感じの曲(“夏の光”)から始まってるんで、似すぎるかな?と思って。『SUPER VIEW』っていうタイトルとかジャケットのイメージで聴いたときに、こういうゆったりとした曲が最初に出てきたほうが、トータルで納得してもらえるんじゃないかな」

──この曲、“早春”には冨田恵一さんがひさしぶりに参加されてますよね。

高樹「そうですね、ストリングス・アレンジで」

──で、アルバムは全体を見渡しても、いわゆる〈打ってる〉ような曲がなく。それと、泰行さんらしい〈骨っぽい〉ロック調も控えめで。

泰行「わりと静かなものばっかり聴いてたからですかね。MFQ(モダン・フォーク・クァルテット)とか古いフォークとか、フォスターの曲ばかり集めたコンピとか。なので、あんまりロックっぽいものとかも出てこなかったですね。単純に歳なのか(笑)、シンプルなものばかり聴いてたんで。でも、自分の好きなようにやったらすごく音数が少なくなっちゃうんですよ。“TREKKING SONG”とか“祈れ呪うな”とか、兄の書いた曲がわりと派手だったんで、僕も打ち込みでストリングスを入れたりとか、自分なりにバランスをとった感じなんです」

──あと、収録曲が9曲って、イマドキのアルバムとしては少なめですよね。そのぶん、世界観も非常に伝わりやすいなと。

高樹「今回は、歌詞の内容もわかりやすいと思うんですよね。何を言ってるのかよくわかんない、って歌詞はないと思うんですよ。モチーフも川だったり山だったり……町のなかにいて個人がいろいろ感じたこと、全体的には〈自分対何か〉、目の前にある〈SUPER VIEW〉なものっていう内容の歌詞が多いので、トータルとしてまとまった印象を持ってもらえるんじゃないですかね」



常にトピカルなものには影響されてる

──そういえば、先に配信されていた“祈れ呪うな”は、〈3.11〉以降のことがモチーフになっている曲ですよね。キリンジって、そういう世の中の大きなトピックに揺さぶられて曲を書くイメージがなかったので、ちょっとした驚きでした。

高樹「たしかに原発のこととかトピカルなものを取り上げるっていうことはあんまりなかったですね。ただまあ、常に時代の空気のなかで生活しているわけだから、そういうものを無視して作品を作ることはできないですよね。今回はまあ、具体的にそういうものが出てきたから強い印象を与えているかも知れないですけど、常にトピカルなものには影響されてるとは思います」

泰行「日常のことを歌っていても、日常の質がだいぶ変わったから、それまであまりなかったものが自然と言葉のなかに表れてくるんでしょうね」

──なるほど……ところで“TREKKING SONG”を書かれた高樹さんは、山登りとかされるんですか?

高樹「レコーディングが終わってから、プロモーションの話題作りに行きました(笑)。高尾山ぐらい行っておかないとって」

泰行「あれって結構きついんじゃない?」

高樹「きつかったよ。それっぽい化繊のズボンとかすぐ乾くTシャツとか、普段絶対着たり履いたりしないようなものをちゃんと揃えて(笑)」

──準備万端じゃないですか!

高樹「あれぐらいの山でも汗ダクダクになりますからね」

──登山帽が似合いそうで……と、とりとめのない話をしている時間はなさそうですので、最後にアルバムの聴きどころをまとめていただけますか?

高樹「そうですね、かなり丁寧に作っているので、大きな音で聴いてもらえればと。なんかね、どうしてもヘッドフォンで聴くじゃないですか。そうすると、音を上げていってもこの頭の周りだけで鳴ってる感じでしょ? 鼓膜が震えてるだけじゃないですか。だけど、ちゃんとダイナミクスをつけた音作りで、大きな音にすると聞こえてくる音もいっぱいあるんですよね。イマドキのリスニング環境では難しいかも知れないし、ハードやメディアに合わせてミックスするべきかなって思うこともあるんですけど、でもそれは好きじゃないなあって(笑)」

泰行「今回はわりと自分たちでやってるというか、兄もティン・ホイッスルにチャレンジしたりとかパーカッションを自分で叩いたりとか、僕も“竜の子”でドン!ドン!ってバスドラみたいな音を鳴らしてるんですけど、これはMacのG5のハコを叩いてる音なんですよね。意外と下がしっかりあるイイ音で録れて。そういうところでも、作ることを楽しんでるというか、いろいろチャレンジしてるところがあるんで、そのへんのガチャガチャした感じとかカラフルな部分を楽しんでもらえたらいいですね」



▼2011年のコンピ『冨田恵一 WORKS BEST〜beautiful songs to remember〜』(avex trax)

 

▼キリンジの近作を紹介。

左から、2010年作『BUOYANCY』、セルフ・カヴァー+提供曲を集めた2011年作『SONGBOOK』(共にコロムビア)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年11月16日 21:50

更新: 2012年11月16日 21:50

ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)

インタヴュー・文/久保田泰平

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