インタビュー

私立恵比寿中学 『エビ中の絶盤ベスト〜おわらない青春〜』

 

 

遠慮のないアイデア

「エビ中は、他のどの仕事よりも〈遠慮なし〉にやっていて、普通なら弾かれるだろうなあ、というアイデアもガンガン遠慮なしにぶつけています。特にインディーズの頃のエビ中は守るべきものなど何もなかったですから、好き放題でした」——振り切れた作風で知られるプロデューサーの前山田健一をしてこう言わしめる、私立恵比寿中学。大手事務所のスターダスト芸能3部における3Bjunior(高校生以下の女性タレントの総称。ももいろクローバーらを輩出)からの選抜で2009年に結成され、今年メジャー・デビューしてからは急加速で人気と認知を広げている(現)9人組です。その飛躍を促したのは自身を〈King of 学芸会〉と称するユニークなパフォーマンスの熱気ですが、そこに油というかガソリンを注いできたのが〈音楽主任〉を務める前山田の楽曲だったことは言うまでもありません。

そもそもは、エビ中がまだカヴァー中心の活動だった頃、ももクロの“行くぜっ! 怪盗少女”を手掛けた前山田に、理事長(偉い人)からオリジナル曲制作の打診があったのだとか。

「もともと本格的なアイドルグループにするべく作られたものではないので、歌が苦手だったり、踊りがへなちょこだったりで、普通の小中学生でした。メンバーのうち4人は小6でしたからね……。顔が可愛い、でも中身は普通の女子たちでした」。

当時の印象をそんなふうに振り返る主任ですが、「声が裏返ったり、ちゃんと歌えてなかったりもするのですが、あえてそのテイクを採用しました。なぜなら当時の彼女たちにしかその表現はできないですから。実際、いま聴き直してそれが正解だったなあ、と思います」という“えびぞりダイアモンド!!”から、彼やチーム全体がリリースのたびにリミッターをどんどん解除していく様子は楽曲からもあきらか。PVで白塗りのキョンシーに扮した怪曲“オーマイゴースト?〜わたしが悪霊になっても〜”を「いちばんエビ中らしさが出てるんじゃない?って思います」(杏野なつ)とメンバーが挙げてくるように、個々の意識も中学生活の楽しさにどんどん感化されていったのは想像に難くないでしょう。

 

 

これからも全力で!!

とはいえ、それらのシングルは入手困難なものも多く……ってことで、これから彼女たちに出会うリスナーにとってもありがたい手引きとなるのが、今回登場する『エビ中の絶盤ベスト〜おわらない青春〜』です。インディー時代のシングル6枚はもちろん、“エビ中 出席番号のうた その1”や“イッショウトモダチ”もここにきて初CD化。先輩ユニットであるPower Ageの“約束”や3Bjuniorの“また明日”のような名カヴァーも、長年のファンにとっては下積み時代ならではの喜怒哀楽と分かち難く結び付いた大切な曲でありましょう。

そんなふうに今作はこれまでの軌跡が一聴瞭然な成長記録となるわけですが、本人たちの耳に、昔の自分たちはどう響くのでしょう?

「成長してますか? 感じないです! 自分たちは相変わらずいつものエビ中のような気がします」(鈴木裕乃)。

「1曲目から順番に聴いていただければ、ほんとにエビ中の歴史などがばばばーっとわかっちゃう最高のアルバムになっていると思います」(瑞季)。

「最初のほうはかなり下手でびっくりしちゃいました(笑)。いまもダメダメですが……でも、それもエビ中だと思って聴いていただきたいな」(なつ)。

「転入してからのたくさんの思い出を振り返ることができるいい機会だと思いました。転校したメンバーの歌っていたパートを大切に歌わせてもらってるので、これからも一生懸命歌いたいです!」(星名美怜)。

そんな彼女たちの変化を音楽主任は「初期は何が何だかわからない状態で本人たちもポケーッとやっている部分がありましたが、インディーで着実に経験を積み、メジャー・デビューすることによって、パフォーマーとしての覚悟が出てきたと思っています」と評価しています。

さて、こうした過去の総まとめが有意義なのも、彼女たちがまだまだガツガツ前進し続けている最中だから。11月4日からツアーがスタートし、12月には(かつてももクロちゃんのサポートで舞台を踏んだ)中野サンプラザにワンマン公演で帰還。来年1月にはメジャーでの3枚目のシングルも控えていて……内容はまだ不明ですが、主任も意気込みを聞かせてくれました。

「次も関われるとしたら、3枚目ということでステップアップの楽曲にしたいですね。他のアイドルファン、そして、アイドルに興味がない人にも引っ掛かるような、普遍的で、でも何かがおかしい楽曲を提供してみたいです」(前山田)。

そう、着実にステップアップを重ねる9人は、もういつ大ジャンプを見せてもおかしくないところまで来ているのです。

「エビ中を観て、感じてください。ただの学芸会じゃありません。King of 学芸会です。これからも全力でいきたいと思っています!」(真山りか)。

 

▼音楽主任=前山田健一の関わった近作を一部紹介。

左から、桃黒亭一門の2012年のシングル“ニッポン笑顔百景”(スターチャイルド)、吉木りさの2012年のシングル“ボカロがライバル☆”(コロムビア)、MEGの2012年作『WEAR I AM』(スターチャイルド)、ヒャダインの2012年のシングル“サンバ de トリコ!!!”、11月28日にリリースされるヒャダインのベスト盤『20112012』(すべてランティス)

 

カテゴリ : インタビューファイル | タグ : 女性アイドル

掲載: 2012年11月21日 17:58

更新: 2012年11月21日 17:58

ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次

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