AFRAに曽我部 『listen 2 my§beat』
ヒューマン・ビートボクサーのAFRAとシンガー・ソングライターの曽我部恵一。まったく異なるフィールドでキャリアを積んできた2人がタッグを組み、カヴァー・アルバム『listen 2 my§beat』を完成させた。曽我部が自身のヒップホップ愛をたびたび公言していることから両者の共通項は窺えるものの、ちょっと意外に思えるユニット結成について2人はこう語る。
「まず僕がカヴァー・アルバムを作ることになったんですけど、1人ではなかなか難しいし、いっしょにできる人を考えたら曽我部さんが思い当たって、声をかけさせてもらいました。高校生の頃からいちファンとして聴いてましたし」(AFRA)。
「AFRAくんとはご近所同士なんだよね。お互い、子供と散歩してる時に会ったりしてたんだけど、最初に〈ビートルズの“Ob-La-Di, Ob-La-Da”をやりたい〉って話を聞いたら、みんなが知っている曲を楽しくやって、子供もワーッと喜ぶような感じ……でも熱いビートがあるものってイメージが浮かんで。おもしろいものができそうだなと」(曽我部)。
取り上げられているのはスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン“Dance To The Music”やゴダイゴ“MONKEY MAGIC”、ベン・E・キング“Stand By Me”といった具合で、AFRAいわく「誰にでも届いて、ヒップホップの同朋でも耳を傾けるもの」を選んだという。多くの人に馴染みのあるナンバーばかりを、2人の声と曽我部のギターのみというシンプル&ミニマムな編成で再解釈している。「全曲、いっしょにセッションして〈せーの〉で録った」(曽我部)ということで、限りなくライヴに近くて生々しいサウンドに耳を奪われる。
「僕は〈もっとこうしたほうがカッコイイんじゃ?〉とか考えちゃうところがあったんですけど、曽我部さんはもっと潔くて〈これでいいじゃん〉って。パッとやった瞬間の熱量とか気分を大事にされているんです。そういう感じは僕にとって新しかったし、実験的でもありましたね」(AFRA)。
「今回はライヴのまま、みたいなほうがいいと思ったし、最近はそういうスタンスでレコーディングすることが多いかな。日々音楽をやっていくなかで、作品は〈ある時の記録〉と考えてるんです。昨日録ったものをいじって時間をかけて出すのって、いまは違うかなと」(曽我部)。
アルバムは前半を〈FUNKY SIDE〉、後半を〈MELLOW SIDE〉と題した2部構成。理屈抜きに盛り上がる前半もさることながら、ヒューマン・ビートボックスを押し出しつつゆったりとしたグルーヴを練り上げていく後半のアイデアが興味深い。なかでもはっぴいえんど“春らんまん”のカヴァーは、このバンドの日本的な情緒と、真っ当にヒップホップ的なビートが違和感なく溶け合うフレッシュな仕上がりだ。
「かせき(さいだぁ)さんもネタに使っていたけど、はっぴいえんどはヒップホップっぽいんだよね。それはやってみてわかった」(曽我部)。
「歌詞が言葉遊びっぽいところも近いですよね。はっぴいえんどは同時代のファンクとかを聴きながら作っていたんじゃないかと思うし、それは僕らがヒップホップを聴いて作るのといっしょなんじゃないかと。同じヤバさを感じてたというか」(AFRA)。
レコーディング・セッションのなかで、AFRAのラップをフィーチャーした“旅立つ者たち”と、曽我部のメロウ趣味が結実した表題曲というオリジナルも2曲生まれている。そのユニット名通り、2人がいれば成立してしまう〈AFRAに曽我部〉のスタイルは本作で完結するものではないはず。この先の展開も十分ありそうだ。
「だから、このアルバムをきっかけにいろいろ曲をメモってますよ。あれカヴァーしようって(笑)」(AFRA)。
PROFILE/AFRAに曽我部
ヒューマン・ビートボクサーのAFRAと、いくつかのバンド活動のほかソロでも作品を発表する曽我部恵一(ヴォーカル/ギター)から成るユニット。AFRAは2009年にソロ名義で3作目『Heart Beat』をリリース。2010年にANI(スチャダラパー)とロボ宙とのDJユニット=DONUTS DISCO DELUXEを結成し、ソロと並行して〈フジロック〉のほか数々のイヴェントに出演している。一方の曽我部は、2008年に再結成したサニーデイ・サービスで今年7インチ・シングルを2枚、曽我部恵一BANDではアルバム『曽我部恵一BAND』を発表。ライヴも多くこなす。各々の動きも活発ななか、このたび本ユニットでファースト・アルバム『listen 2 my§beat』(DefSTAR)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年12月20日 13:20
更新: 2012年12月20日 13:20
ソース: bounce 350号(2012年11月25日発行)
インタヴュー・文/澤田大輔