キバオブアキバ “全部宇宙が悪い”
オタク・カルチャーと深くコミットした歌世界とヘヴィー・メタル/スクリーモ系のサウンドを共存させた、京都発の(自称)〈ヲタイリッシュ・デスポップ・バンド〉キバオブアキバ。アニメ、インターネット、ゲームといった要素が何の違和感もなく内包されたスタイルは、〈コミック・メタルコア〉〈ヲタmeetsマキシマム ザ ホルモン〉といった賛辞と共に、それぞれのシーンの愛好家のみならず、より広く、熱狂的に受け入れられつつあるようだ。
「いろいろな音楽に触れて、アーティストのインタヴューを読んだり、時にはコピーをしていくなかで、〈音楽は音楽のみにて構成されるものにあらず〉ということに気付きました。そこで〈表現する自己の内面をまず見つめ直さねば、良い音楽などできるはずがない〉と、できるだけ家でゲームをしたり、アニメや特撮を観るようにしました。その結果、表現方法自体にも縛りを感じなくなりました。正確に言えば、麻痺しました」(ふとし)。
「確かにインターネットの普及でゲームやアニメなどの敷居が低くなってきているとは思います。が、世の中ではそれらをちょっと自重すべきみたいな風潮がまだまだ残っている気もします。僕らなりのやり方で好きなことをもっと自由に、堂々とできる環境作りに少しでも貢献できれば最高ですね」(もら)。
BABYMETALとのスプリット盤を経て約1年ぶりにリリースされた単独作品“全部宇宙が悪い”でも、人目やイメージを気にせず、ただひたすら好きなことを詰め込んでいくというこのバンドのスタンスが、躊躇なく表現されている。サウンドの軸になっているのはもちろん、超本格的なヘヴィー・メタル。そう、彼らがここまで急速に知名度を上げている最大の理由は、高度な演奏テクニックに裏付けられた音楽性だろう。強靭なリズムを生み出すドラム、速弾きフレーズを織り交ぜながらボトムを支えるベース、轟音のなかにドラマティックなメロディーを描き出すギター、楽曲のスケール感と奥深さを演出する鍵盤。その激しいぶつかり合いを、マッチョイズムとは対極に思えるメンバーがダイナミックに体現していく──これこそが彼らの新しさ、おもしろさなのだ。
「残念ながら、行き着くところがここしかなかったからこのジャンルをやってます。結局みんなアイアン・メイデンとメタリカが好きだと思うんですよ」(みつる)。
「ストック曲を全部入れただけなので、今作の全体的なテーマはないはずなんですけど、結果的に自分たちのいろいろな面を見てもらえる形になったかなと。喜怒哀楽と陰陽を感じていただければ幸いです」(ふとし)。
〈何もかも宇宙のせえやんか!〉という逆ギレぶりが気持ちいい“全部宇宙が悪い”、〈とりあえず謝っとけ〉という態度の是非を問う(?)“謝罪黙示録 〜 Apocalypse Of The Apology 〜”など、スケールが大きいのか小さいのかわからないリリックも、このバンドの愛すべきポイントだ。
「よく世の中の不条理について歌う歌がありますが、条理/不条理ってあくまで人間視点であって、宇宙からすれば〈その地球とかいう星で、君たちが勝手にワーワー騒いでるだけじゃないの?〉って感じかなと思って。“全部宇宙が悪い”は、そこから〈何様やねん宇宙!〉という憤りが生まれ、それを歌詞にしました。“謝罪黙示録 〜 Apocalypse Of The Apology 〜”については、きっかけ自体は〈目立ったらどうせ叩かれるんやろ! じゃあ叩かれる前に謝ったるわい!〉という〈攻撃は最大の防御〉の逆説的な観点です。しかし、作詞当時は芸能界や政界などさまざまなところで謝罪会見が行われており、それに影響を受けて社会風刺的な側面が強くなった、ということにしておいてください」(ふとし)。
いまやメインストリームでも完全に認知されるところとなったオタク・カルチャーの新たな可能性を示しつつ、突然変異的なヘヴィー・メタルを体現する6人は、今後さらに注目されることとなりそうだ。
PROFILE/キバオブアキバ
ふとし(ヴォーカル)、もら(ギター)、326(ベース)、あさい(サンプリング/ヴォーカル)、VAVA(ドラムス)、青木昆陽(キーボード/蘭学)の6人で2008年に結成。2011年に初の正規音源〈オマケCD付き正規缶バッジ〉をリリースし、タワレコオンラインのJ-INDIESチャートで1位を獲得する。2012年は3月にBABYMETALとのスプリット盤『BABYMETAL × キバオブアキバ』を発表、オリコンのインディー・チャートで3位を記録。前後して日本最大級のメタルコア/スクリーモ系イヴェント〈SCREAM OUT FEST〉や〈イナズマロックフェス〉などの大型フェスにも出演し話題を呼ぶなか、このたびニュー・シングル“全部宇宙が悪い”(キバオブアキバ製作委員会)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年12月20日 13:15
更新: 2012年12月20日 13:15
ソース: bounce 350号(2012年11月25日発行)
インタヴュー・文/森 朋之