インタビュー

赤堀雅秋(映画『その夜の侍』監督)

「僕が作る物語って凡庸な人が主人公なことが多くて、いつもキャスティングに悩むんです」

これまで映画で幾度となく描かれてきた復讐の物語。愛する者を奪われた主人公は、様々な危険をかいくぐりながら宿敵の息の根を止める。でも、平凡に生きてきた男が憎むべき相手と向き合った時、彼は何を思い、どんな行動に出るのか。岸田戯曲賞にノミネートされた戯曲を映画化した『その夜の侍』は、復讐に取り憑かれた一人の男の物語。本作で初監督に挑んだのは、原作者でもある劇作家/俳優の赤堀雅秋だ。

「映画に関してはまったく初体験だったので、話を頂いた時はひたすら恐怖で(笑)。でもプロデューサーから、原作と僕が一体化しているからと言われて、自分で撮りたいという気持ちがムクムクとわいてきたんです。演劇を20年近くやってきたなかで、自分なりのつたない財産もできたし、それをうまく映画にリンクできないかと」

妻をひき逃げされた男、中村(堺雅人)は、何の反省もなく好き勝手に生きているひき逃げ犯、木島(山田孝之)に復讐を誓い、「お前を殺して俺は死ぬ」と〈果たし状〉を送りつける。決行日は妻の命日。映画では、決闘に向けて中村と木島の日常が平行して描かれていくが、堺雅人、山田孝之というワザもセンスもある二人の名優の演技が光っている。

「僕が作る物語って凡庸な人が主人公なことが多くて、いつもキャスティングに悩むんです。役者さんに凡庸な人なんていないじゃないですか(笑)、みんなどこかに華があったり毒があったりするわけで。そんななかで、堺さんなら凡庸さを体現してくれると思ったんです。山田さんはこれまで何度かお会いしているんですけど、何を考えているのか、どういう人なのか掴めない。でも、そこが魅力的なんですよね」

そんな主役二人を支えるのは、新井浩文、田口トモロヲ、安藤サクラなど個性派揃い。こうしたキャストから最上の演技を引き出す赤堀の演出力は、演劇という世界で培った〈財産〉のたまものだろう。

「ありきたりな言葉ですけど、リアルな芝居をしてもらいたいんですよ。でも、それは〈リアル風〉な芝居じゃなくて、役者さんは一人の人間として持っている自分の生理のなかから生まれてくるものを引き出したいと思っていて。 〈悲しい〉っていう表現も、10人の役者さんがいたら10様の悲しみがあって当たり前なんです。例えば堺雅人というフィルターを通じて、その悲しみがどんなふうに出てくるのか。それを感じたい」

借り物の表現ではなく、人間を感じさせる芝居。そうした演じる者の体温を引き出す演出は、ラストの対決シーンで思わぬ展開となって結実する。そこで向き合うのはヒーローと悪漢ではなく、どこにでもいる凡庸な男達。それはドラマティックな〈決闘〉というより、気恥ずかしいほど赤裸々な〈葛藤〉だ。

「あの決着の付け方は、すごく悩み抜いて考えました。とにかく二人の闘いを無様に撮ろうと(笑)。二人が延々もつれあっているサマを観ているうちに、なぜかわからないけれど涙が出たり、笑ってしまったりするようなシーンにしたいと思って撮影に挑んだんです。あそこで二人の闘いを収束させちゃいけないんだ、という思いはありましたね」
本作の撮影が終わった後、助監督から「初監督でありとあらゆることをやりましたね」と言われたという赤堀。スタッフに囲まれて現場を仕切る作業は演劇の演出と通じるところもあるが、本作を通じて感じた映画の魅力をこんな風に語ってくれた。

「舞台では、目の前にいる生身の人間とコミュニケートすること、その空気感を伝えることを意識してやっているんですが、映画ではそういうものはないかなと思っていたんです。でも、この映画が完成して、映画でも臨場感や役者の息づかいが伝わってくるし、観客とコミュニケーションがとれるんだと感じて。それがすごく楽しかったですね」

また映画を撮ってみたいですか? と問いかけると「もちろん」と即答。日本の映画界に頼もしい才能が現れた。

その夜の侍メイン

映画『その夜の侍』

監督・脚本:赤堀雅秋
主題歌:UA「星影の小径」
音楽:窪田ミナ
出演:堺雅人 山田孝之 綾野剛 高橋努 山田キヌヲ/坂井真紀 安藤サクラ 田口トモロヲ 新井浩文
配給:ファントム・フィルム(2012年 日本 119分)
◎11/17(土)より全国ロードショー!
http://sonoyorunosamurai.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年11月05日 15:19

ソース: intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)

interview&text:村尾泰郎