花柳壽輔(2)
正に必見、《牧神》上演史に新たな妖艶を薫らせるであろう出逢いが実現したわけだ。
「さらに今回、《ボレロ》は何としてもやってみたかったのです」と壽輔師。「私は振付家のベジャールが《ザ・カブキ》[『仮名手本忠臣蔵』によるバレエ /1986年]を振り付けるとき日本側スタッフとして振付に関わりました。彼は歌舞伎のこともよくご存知なんですけど、ここは日本舞踊や歌舞伎ではどう表 現するのか、ということを質問される。私が侍の型をみせると『わかった』といって即座にその場でベジャール流の振付に変える。私が『娘道成寺』を口三味線 で踊り[作曲の]黛敏郎さんがピアノで採譜して‥‥楽しかったですよ。海外公演もずっとご一緒させていただきました。ベジャールさんはわたくしにとって本 当に尊敬する振付師であり舞踊作家です。彼の振付を観てどうしても演りたくて、わたくし流の《春の祭典》を演ったこともありますが、これの変拍子が難しく て!(笑)」
ベジャールがみせた、洋の東西を超える舞踊表現。その彼も傑作振付を遺した《ボレロ》を壽輔師が今回新たに演出するのは、もちろん彼へのオマージュだ。
「ただ、これの振付は日本舞踊家ではできません。それで狂言師の野村萬斎さんはどうだろうと思いましたら、たまたま世田谷パブリックシアターでおやりになったということで」快諾、紋付袴姿の男性群舞40名が登場する舞台が生まれることになった。
「日本舞踊は途中に掛け声が入ったり‥‥これは休止符とも違うので正確に記譜できないのですが、ベースは4分の2拍子なんです。ですからストラヴィンス キーのように変拍子も1小節ずつ変わっていく音楽は舞踊家にとってとても難しいのですが、この《ボレロ》のように同じリズムが続く曲は割にやりやすいと思 います。アクセントを萬斎さんにお任せして、群舞は隊形をいろいろ変えて‥‥というふうに思っているんです」
ショパンのピアノ曲がバレエ用にオーケストラ編曲された《レ・シルフィード》では女性群舞20人が登場、「着物を着た群舞の動きの美しさをお見せしたいと 思います」。こちらは藤蔭静枝が振付を担当。バレエ・ガラでも人気のバルコニー・シーンを上演する《ロミオとジュリエット》[振付:坂東勝友]は「同じよ うなシチュエーションがある歌舞伎をお手本にしてつくりますし、人形遣いのでてくる《ペトルーシュカ》[振付:五條珠實]は文楽に民俗芸能のお神楽のよう な要素も入れて‥‥日本舞踊にはいろいろな表現の方法があるわけで、先ほど申し上げたように、先行芸能である能や文楽、歌舞伎の手法をとれるような作品を 選んだわけです。こうして並べてみると、それぞれ色合いが違って面白くできたかなぁ、と自画自賛したらいけませんけど(笑)。‥‥しかし、指揮の大井剛史 さんにはご苦労をおかけすることになると思います」
新国立劇場バレエ団をはじめバレエ指揮の経験も着々と重ねる俊英指揮者が、ピットによく馴れた東京フィルハーモニー交響楽団を振る。舞台上には日本舞踊界 の錚々たるメンバーが、ピットにはバレエをよく知る音楽家が揃う今回の公演、舞台を支えるスタッフ陣も豪華だ。朝倉摂・金子國義・千住博が舞台美術を担当 するほか「50年来のおつきあいで、注文を出さなくても分かっておられる」という舞台照明家・沢田祐二とヴェテランが揃う。
「こういうチャンスを与えていただきまして、失敗を恐れずに冒険させていただきます。成功しましたらぜひ今後も続けてやらせていただきたいですし、海外公 演などできる道も拓けるのではないかと希望を持っています。そして、こういうことを継承してくれる若い人がどんどん出てきてくれないといけないんです」
壽輔師のまなざしは優しくも、強い。
──美しい舞台を楽しみにしよう。
花柳壽輔(はなやぎ・じゅすけ)
花柳流四世宗家家元。平成19年に四世家元壽輔を襲名。二十代で日本舞踊界に登場以降、日本舞踊家としてはもちろん「東宝歌舞伎」などで俳優としても活躍。宝塚歌劇団や商業演劇での振付作品も数え切れない。本公演では演出と構成も担当、傘寿を超えた現在も新しい試みに対する意欲は増すばかりである。流派を超えて後進の指導的立場にあり、名実ともに日本舞踊界を代表する舞踊家である。日本芸術院会員。東京芸術文化評議会評議員。
http://hanayagi.tv/
東京文化会館舞台芸術創造事業
日本舞踊×オーケストラ ―伝統の競演―
12/7(金)18:15開場/19:00開演
会場:東京文化会館 大ホール
花柳壽輔(演出)大井剛史(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団
※チケット完売
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