JOSE JAMES 『No Beginning No End』
始まらなければ終わらない——ブルーにこんがらがった過去最高にパーソナルな新作がいよいよ完成!
ホセ・ジェイムズが完成させた通算4枚目のアルバム『No Beginning No End』は、ブルー・ノートからのリリースとなる。彼の才能を見い出したジャイルズ・ピーターソン主宰のブラウンズウッドに2枚のアルバムを残し、ピアニストのジェフ・ニーヴと組んだリアル・ジャズ傾向の3作目をインパルスから出していたホセだが、ジャズ出身ながらもそれに縛られず多様なスタイルを行き来した表現を志向する彼に、いまのブルー・ノートはピッタリ。落ち着くべき場所に落ち着いたという印象だ。
「ノラ・ジョーンズがデンジャー・マウスと組んだアルバムはすごくおもしろかった。いまのブルー・ノートは、個性的な声の持ち主や替えの利かないユニークな才能に新しい試みをさせる……っていうところに主眼を置いているように思うんだ。アーロン・ネヴィルや、ブルー・ノートに復帰したウェイン・ショーター。それにいまの僕にとってもっともエキサイテイングなミュージシャンであるロバート・グラスパー。こうした人たちと同じ場所にいられることを嬉しく思うし、そのなかで自分はとてもコンテンポラリーな存在でいられる気がしているよ」。
そのロバート・グラスパーや、モロッコ生まれフランス育ちのシンガー・ソングライターであるインディ・ザーラら、レーベルメイトとなった面々ともがっぷり組み合った新作だが、そうした共演はレーベルのコネなどではない。そもそもホセは特定のレーベルと契約がないときに自費で制作を開始し、みずからの眼識だけを頼りにミュージシャンやスタジオを選んで一曲一曲仕上げていったのだ。その初めのセッション相手がインディ・ザーラで、それは2作目『Blackmagic』のジャケット写真を撮ったハッサン・ハッジャ(インディと同じくモロッコ出身)の紹介によるもの。そのセッションの評判がレーベル内で広まり、ホセはブルー・ノートと契約することにもなったのだ。
「今回のアルバムを作り上げるのに2年かかった。完璧をめざしたかったんだ。時間がかかったぶんだけ、お金もかかったよ。パリでインディ・ザーラとやったり、ロンドンでピノ・パラディーノとやったりと、3か国、5つのスタジオに入って録った。そうしている間に極めて自然な流れでブルー・ノートと契約することもできたわけなんだ」。
ほかにもアンプ・フィドラー、ピアニストのクリス・バワーズといった協力者を招き、ソウル、ジャズ、ゴスペルの要素などを絶妙にブレンドさせている今作だが、なかでも新味を感じさせるのは、NY生まれのシンガー・ソングライター、エミリー・キングが書いた2曲の穏やかなポップ・バラードだ。
「2010年に彼女のライヴを観に行って知り合った。クールなグルーヴのある曲もいいけど、もう少し〈シンガー・ソングライター感〉みたいなものを表現したくて彼女に頼んだんだ。今回僕が特にこだわりたかったのは、メロディーの構成がしっかりした〈いい曲〉を歌うことと、そこに宿る演奏者の〈温かみ〉を表現することだったんだよ」。
〈シンガー・ソングライター感〉——20数名のミュージシャンと作りながらも、これまででもっともパーソナルな色合いが濃く表れているのは、そのためだろう。その最たる曲が締めを飾る“Tomorrow”である。
「ニック・ドレイクが好きで、彼の曲のようにダークさのなかにある歓喜を表現したくてストリングスを加えた。人生は哀しく、誰かを失えば心は傷む。でもそれを乗り越えなきゃ生きてはいけない。人生の課題というかな。そういうことを僕なりに歌いたかったんだ」。
▼ホセ・ジェイムズの作品。
左から、2008年作『The Dreamer』、2010年作『Blackmagic』(共にBrownswood)、ジェフ・ニーヴと組んだ2010年作『For All We Know』(Impulse!)
▼『No Beginning No End』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、インディ・ザーラの2010年作『Hand Made』(Blue Note)、ピノ・パラディーノの在籍したジョン・メイヤー・トリオの2006年作『Try!』(Columbia)、アンプ・フィドラーの2006年作『Afro Strut』(Genuine/PIAS)、クリス・バワーズの2010年作『Blue In Green』(M&I)、エミリー・キングの2007年作『East Side Story』(RCA)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年01月18日 13:00
更新: 2013年01月18日 13:00
ソース: bounce 351号(2012年12月25日発行号)
インタヴュー・文/内本順一