高木正勝 『おむすひ』
大切なのは取り戻せないもの、自分がすでに持っている何か
音楽家、そして映像作家としても活躍する高木正勝。エレクトロニックかつアコースティックなサウンドは、風のささやきに耳を傾けるような繊細さと、時間も国境も越えるような大きな広がりを感じさせる。2009年に発表された『Tai Rei Tei Rio』ではゲスト・ミュージシャンを迎えて壮大なシンフォニーを展開したが、サントラなどを挿んで届いた今回の新作『おむすひ』は、前作以降に配信限定で発表された音源を中心にコンパイルしたアルバムだ。TVや映画のサントラ、CM曲のように依頼されて制作されたものが中心だが、そこには高木のこんな思いが込められている。
「作りたいものに対して監督に百の思いがあるとしたら、監督が気付いていない百のものを音楽で補充する。そんなふうに考えると自然と音楽が湧いてくるんです」
そうした既発音源にレア・トラックや未発表曲が挿み込まれていく構成だが、なかでも印象的なのは、旅先で録り溜めたという〈Light Song〉シリーズだ。
「旅で出会った人にメロディーを伝えて、その場で歌ってもらって録音したものなんです。今回、これを入れることで『Tai Rei Tei Rio』以降に作った曲の共通点が見えてきた。これまでは音楽としてどんどん洗練させていくほうに進んでいたんですけど、最近はそういうことを意識せずに個人的な思いで作ったものがいちばん愛おしい気がして。東日本大震災も関係しているかもしれないですね。大切なのは取り戻せないもの、自分がすでに持っている何かだと思うんです」。
アーティストとして次のステップに踏み出した高木。ここには、その軽やかで力強い歩みが刻まれている。
▼高木正勝の2009年作『Tai Rei Tei Rio』(EPIPHANY)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年02月22日 12:20
更新: 2013年02月22日 12:20
ソース: bounce 352号(2013年2月25日発行)
インタヴュー・文/村尾泰郎