ロベルト・フォンセカ
キューバとアフリカをつなぐ新機軸
明らかにこれまでとは違う。誰もがそう感じるはずだ。キューバ人ジャズ・ピアニスト、ロベルト・フォンセカの新作『ジョ』は、タイトルがスペイン語で“私”という意味だけに、実に自信に満ちた大胆な作品に仕上がっている。
「キューバの伝統音楽、アフリカの音楽、そして最新テクノロジーを駆使したサウンド。その三つを融合させてみた。音楽家としてはとてもリスクある冒険だったけれど、これを新しいキューバ音楽として提案したいんだ。ジャンル分けできないとしても、より多くの人とコミュニケーションができる音楽だと思う」
15歳でステージ・デビューした後、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのワールド・ツアーへの参加、ヒップ・ホップやブラジル音楽とのセッションなどキャリアを重ねつつ、自身のリーダー作もすでに7作目。そろそろ息切れしてもおかしくない時期なのだが、ここにきて一気に加速したような印象を受ける。ラテンのリズムをベースにしつつも、コラやトーキング・ドラムといったアフリカの楽器、そしてマリのファトゥマタ・ジャワラやアルジェリア移民のフォーデル、セネガルのアッサン・ンブプという“声”を絶妙に配した本作は、たんにキューバやアフロといった一面だけでは計り知れない複雑で繊細な構造を持った楽曲が並ぶ。
「セコウ・コウヤテ(ギニア出身のコラ奏者)を起用したのは、伝統と現代をつなぐことの出来るミュージシャンだから。《JMF》でエレキ・ギターのように聞こえるのも彼の弾くコラなんだ。3人のヴォーカリストは、独自の色をしっかり持っているということとスピリチュアルな表現が出来ることを条件で選んだ。一発で空気を変える効果を生んでるんじゃないかな」
また、ジャイルス・ピーターソンに2曲プロデュースを依頼し、マイク・ラッドのポエトリー・リーディングをフィーチャーした《ミ・ネグラ・アベ・マリア》など、クラブ・ミュージックに肉迫しているのも興味深い。
「これは、多くの混乱に直面しているこの世界に対する聖歌的な意味合いがある。スタジオに入るまでどんな詩が乗るのかはまったく分からなかったんだけど、意図していた通りだった」
これまでの作品では、ジャズ・ピアニストとしてのロベルトが主役だった。しかし、今作はどちらかというとプロデューサーとしての視点で、常に一歩先を見据えているようだ。
「実はもう次の作品のことも考えている。今回も曲を絞り切れなかったくらいだからね。もっと他の国の歌手やミュージシャンとも共演してみたいし、ロックやダブステップなどを取り入れてみても面白いな、なんて考えているよ」