コトリンゴ
最高傑作か!? 加速する想像力に手腕が結実
「2012年の総括的な作品になったと思う」とは、3年ぶりとなる4枚目のフル・アルバム『ツバメ・ノヴェレッテ』についてのコトリンゴの発言。昨年彼女は、口ロロの村田シゲ、赤い靴の神谷洵平とのトリオ編成による『La memoire de mon bandwagon』、坂本龍一との共同制作となる『新しい靴を買わなくちゃオリジナル・サウンドトラック』という2枚をリリースしているが、確かにこの新作は両方のエッセンスが溶かし込まれているような内容であり、加えてこれまでの集大成的作品と言ってしまえるほどに、彼女の独自のセンスが大きく開花したポップス・アルバムに仕上がっている。
「元々曲数は揃っていたんですが、なるべく寄せ集め感を出したくなくて、ちゃんとした流れのある作品を作りたかった。作品のコンセプトになるものはなんだろう? と考えたとき、ちょうど私のなかでツバメ・ブームがきていまして(笑)、それを主人公とした物語を作ろうと。そうして流れに沿うように残りの曲を作ったんですけど、場面場面に相応しい楽曲を自分で自分に発注するみたいな感じでした(笑)」
まず奇想天外なシナリオを思いついてしまったことで彼女の想像力加速装置にスイッチが入り(“ツバメが飛ぶうた”ではツバメ語まで生み出している)、作られるサウンドのファンタジー度も次第に高まったであろうことは容易に想像できる。ティム・バートン世界との繋がりを感じさせる幕開けの《preamble》で披露されるギミックをはじめ、あちこちで細かいこだわりの演出がみられるのも楽しい。
ミュージカル調の《テイラー兄弟》(ビューティフル・ハミングバードの小池光子とデュエット!)もあったりして、実に映画的な作りの作品になった『ツバメ・ノヴェレッテ』(ツバメの短編小説集)だが、村田シゲと神谷洵平とトリオ演奏による楽曲にも注目したい。テクノロジーを用いながらコトリンゴがひとりで編み上げた楽曲に、気心知れた両名と紡いだ生々しいバンド演奏を混ぜ合わせたことで、全体の色合いがグンとカラフルになっている。それと彼女の音楽が兼ね備えているノスタルジックな匂いが、映画的なスタイルに向かい合ったことでより強まっている点も興味深い。
キャリア最高傑作と呼ぶに相応しい本作は、コトリンゴという音楽家の何を物語る一枚になったのか?
「私がやりたいこと、今までやってきたことが活きたアルバムだと思う。やり方が拙いながらもサポートしてもらいながら作り上げることができたと思います。自由に作品を作っていくうえで、これは第一歩だって気がします」