インタビュー

坂本真綾 『シンガーソングライター』

 

人生そのものが音楽──そんなメッセージを麗しい美声で伝える彼女が新たに得た肩書きは、『シンガーソングライター』!

 

 

17年というキャリアのなかで、歌手としてミュージカル女優として、エッセイストやラジオのパーソナリティーとして、そして声優として、幅広く活躍してきた坂本真綾。そんな彼女がついにみずからを〈シンガーソングライター〉と名乗るときがきた。

「昨年は『シングル・コレクション+ミツバチ』を出して、華々しいツアーもやったので、次のアルバムは思い切り自分の世界を作っていく方向にしたいなと思っていたんです。そんななかでスタッフの方から、〈一枚のアルバムで、丸ごと作詞・作曲してみたらどう?〉と言ってもらって。正直、すごく嬉しかったですし、自分でもそれをやってみたかったけど、まだ言う勇気がなかったので背中を押してもらえた感じがあって。おもしろい挑戦じゃないかなと思ったんです」。

そうして完成した8枚目のアルバム『シンガーソングライター』。その1曲目“遠く”から、〈予感のままに前に進んでいきたい〉という彼女の宣誓が、丁寧なコーラスワークと疾走感、滑らかなメロディーに乗せて運ばれていく。燦々と降り注ぐ太陽とは対照的に、憂鬱な気持ちを美しい恵みそのもののような旋律で描く“サンシャイン”、そしてトルコを旅していたときに感じたことを元に、旅人としてではなく現地の人の目線で書いた“ニコラ”も実に彼女らしい仕上がり。全10曲、とてもナチュラルな佇まいで普遍的なメロディーを掴まえて歌う坂本真綾がここにいる。そして全作詞・作曲・プロデュースという初の試みながら、本作が才能溢れる多くの作家やミュージシャンたちとコラボレーションして作ってきた、これまでの流れの延長線上にしっかりと位置付けられる作品になったのもすごいことだ。

そして、ラストの“シンガーソングライター”では、軽やかでとことん楽しい曲調のなかで〈呼吸はメロディ/かかとでリズムを/それだけでもう音楽〉と、〈誰もの人生そのものが音楽なんだ〉というメッセージを放つ。

「ここ何年も思ってることがあるんですけど。音楽を作る過程で、例えばレコーディングで何かのハプニングでできたことがそのまま採用になったり、譜面には書かれてない部分で、いろんな出会いや試行錯誤があったりとおもしろいことは起きてるわけですよ。音楽を作ること自体が生きることと同じだなって、よく思うんですよね。上手だから良いとも限らない、弾く人によって同じ楽器でも音色が違うし、歌もそう。とにかく個性が出る。一人一人、生きているだけで、その人生が音楽と同じ。〈シンガーソングライター〉って言うとすごく大仰な気もするんだけど、たぶん生きているだけでそうなんだ、ということが書きたかったんです」。

自身の大きなチャレンジを、飾らず気負わず麗しい歌声に乗せて、多くの人にとっての普遍的なメッセージにして届けることのできる坂本真綾。彼女はそう、まさに素敵な〈シンガーソングライター〉なのだ。

 

▼坂本真綾の参加した近作を紹介。

左から、冨田恵一のベスト盤『冨田恵一 WORKS BEST~beautiful songs to remember~』(rhythm zone)、末光篤の2012年作『フロム・ユア・ピアニスト』(メディアファクトリー)、2013年のコンピ『ーNHK みんなのうたセレクションー Bouquet~Heartful Songs~』(ソニー)

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掲載: 2013年03月13日 18:02

更新: 2013年03月13日 18:02

ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)

インタヴュー・文/上野三樹

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