インタビュー

エリザベス・シェパード

「学ぶことの多い良い体験だったわ」

06年のデビューからの6年間に、エリザベス・シェパードはカナダのグラミーにあたるジュノ賞や権威あるポラリス賞の候補となり、日本にも何度も来日するなど、たちまちカナダを代表するジャズ歌手となった。シンガー・ソングライターでピアニストでもあるエリザベスは、正統派ジャズとクラブ・ジャズの間を自由に行き来する。それもそのはず、彼女は元々ヒップホップ経由でジャズを知ったのだ。

「自分で見つけて楽しんだ最初の音楽がヒップホップとビートルズだった。ヒップホップはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンがきっかけで、すぐにザ・ルーツを発見した。ヒップホップの黄金時代で、ア・トライブ・コールド・クエスト、ファーサイド、デ・ラ・ソウルとかが好きだった。そしたら、ATCQがフレディ・ハバードをサンプリングしていた。“これって何? おもしろいわ”と、裏口からジャズに興味をもったのよ。それでマイルス・デイヴィス、フレディ・ハバード、ハービー・ハンコックのヘッドハンターズなど、時代を遡ったの」

4作目となる最新作『リワインド』は初のスタンダード曲集だが、以前の彼女はこういった企画を拒否していた。その気持ちを変えさせたのは、昨年の長女の出産だった。

「母親業に忙しくなって、人前から消え、″エリザベス・シェパードってどうしたの? ″となるのを恐れたの。赤ん坊の世話に忙しくなる時期に、私の作品を出しておきたかった。でも、ツアーを終えた時点で出産まで4ヶ月しかなかったから、オリジナル・アルバムには時間が足りない。そこで、長年歌い続け、今も楽しんでいる曲を集めたアルバムを作ろうと思った」

収録曲はコール・ポーターから、仏育ちらしくジョルジュ・ブラッサンスまでを取り上げた。 「いつもはこれまでに歌われてきた通りにやるか、ほとんど原曲がわからないくらいに変えてしまうか、どちらか極端になる傾向があるけど、今回はその誘惑に負けず、どちらにも行かずに、歌そのものを大事にした。シンガー・ソングライターとしての歌を理解する力を信頼したの。だから、編曲の多くはかなりシンプルで、音数が少ない。曲の本質をとらえたかった」

さらに、これまでとは制作の姿勢も異なった。

「今回は気楽にやろう、自分をあまり厳しく追い込まず、楽しもうと決めた。音楽が必ずしも完璧で複雑で能力を試すものでなくてもいいってね。皮肉なのは、この制作をとても楽しんだので、今はソングライティングでも同様の取り組みをしているの。厳しく自己批評して審判を下すよりも、次の曲、次の曲と書き進めている。学ぶことの多い良い体験だったわ」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年03月28日 15:56

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 五十嵐正