インタビュー

ALLEN STONE 『Allen Stone』





「家ではキリスト教に関係ない音楽を聴くのが許されていなかったけれど、4〜5年生の頃に兄が隠し持っていたCDを聴くようになったんだ。ケイクのアルバムだったかな。そこからニルヴァーナやパール・ジャムにどんどん傾倒して、6〜7年生になる頃にはサード・アイ・ブラインドやレッチリに進んで、8年生ではクリスチャン・ミュージックにどっぷり浸かったね。それからポリスとかビリー・ジョエルとかを聴いて、ヒップホップとR&Bをかじるようになって……で、ハイスクール2年目に、とうとうスティーヴィー・ワンダーっていうパンドラの箱を開けてしまって……」。

自身のリスニング遍歴をそう振り返るのはアレン・ストーン。のっぽさん的な佇まいというか、往年のヒッピーや魔法使いみたいな風貌からはどんな音楽をやっているか言い当てづらそうですが、パンドラの箱から飛び出してきたのは豊潤なソウル・ミュージック。世俗の音楽を聴くことが許されなかったというのは教会育ちのアーティストに多いエピソードながら、彼もまた禁欲を経て憧れを自己流の表現に至らしめたひとりなのです。ストーンという姓もスライにあやかって付けられたステージ・ネ−ムなのかと思いきや……。

「生まれた時に与えられた本名なんだよ。でも、考えてみるとソウル・シーンにはストーンっていう人が何人かいるけど、正真正銘の、生まれながらのストーンって僕だけかも! スライにジョス・ストーン……あともう一人いたけど、思い出せないや」。

(小声で)アンジーさんですよ。それはさておき、人口2千人ほどの田舎町で「ポップ・カルチャーから完全に切り離されて」少年時代を送った彼にとっては、昔の音楽も現代の音楽も距離感はさほど違わないようで、大きな影響源となるのはそのスティーヴィーやダニー・ハサウェイ、マーヴィン・ゲイなのだそう。確かに力強くドライヴする節回しの感じは、まさにスティーヴィーさながらです。

「僕はヴォーカル・レッスンを受けたわけじゃなくて、耳で学んできたんだ。ディアンジェロにも相当な影響を受けたよ」。

そういった先達の意識を強く投影した音楽性は、一昨年の自主盤から始まって今回ワールドワイド・リリースにまで至った『Allen Stone』にもあきらかです。

「ソングライティングの面では、やっぱりマーヴィン・ゲイの『What's Going On』ほど素晴らしいアルバムはないと思うね。あのコンテクストと内容を考えると、あれほど文化的に影響を与えたアルバムは他にないんじゃないかな。いまそこまで文化に影響を与える作品ってないよね。それがいまの音楽のいちばんのダメなところだよ。恋愛やロマンスを曲にするのは僕だって嫌いじゃないけど、そればっかりってのはダメだと思うね。アデルなんて本当に素晴らしい才能の持ち主なのに、歯痒くて仕方なくなるんだ。彼女が少しでも何かを人に訴えるために歌えばすごい影響を与えられるのに、惚れた腫れたのことしか歌わない。ケイティ・ペリーにしたってそうだよ」。

どうですか、この生真面目さ。そんな厳しい彼は自分の楽曲でもロマンスに偏重しないよう気を配っているようで、特にお気に入りだという“Contact High”はアル・グリーンばりの美しいファルセットを披露する超スウィートな感触の曲ながら……。

「この曲は、自分も含めて僕らの世代がいかにSNSに影響されているかっていうことを歌っている。懸命にオンラインで繋がろうとしながら、実社会では……っていうことを歌っているんだ。音楽を通して人に何かを考えてもらいたいっていう僕の考えを体現できている曲だね」。

そんな発言ばかり抜き出すと妙に堅苦しい作品のようですが、ピュアリストとも言える姿勢から生まれた楽曲の数々が実に温かく心地良い音像に包まれていることは強調しておきます。それは、パーティーもメッセージも織り交ぜて50年超のソウル遺産を血肉化したラファエル・サディークの近作にも通じるもの。実際に『Allen Stone』にはラファエル・バンドのリズム・セクションも助力していて、ライヴ・フィーリングに溢れた全体の意匠も魅力のひとつであります。まもなく実現する来日公演でもその本領発揮を期待しましょう。



PROFILE/アレン・ストーン


87年生まれ、ワシントン州チェウェラ出身のシンガー。牧師を父に持ち、3歳の頃から教会で歌いはじめ、その後ギター演奏にも習熟していく。10代になってから世俗の音楽に触れ、60〜70年代のソウルを志向するようになる。大学生活を経てシアトルに移り住み、ライヴ中心の活動をスタート。年間200本もの演奏をこなしながら、2009年にデモ音源を集めた『Last To Speak』を発表する。その後はマックルモア&ライアン・ルイスなどの楽曲に客演。2011年に自主リリースし、2012年にはATOから全米流通されたアルバム『Allen Stone』(StickyStone/ATO/Decca/ユニバーサル)が今年に入ってデッカからワールドワイド流通となり、4月3日に日本盤がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年03月20日 18:00

更新: 2013年03月20日 18:00

ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次